河合雅司(産経新聞論説委員)


 安倍晋三政権が、外国人労働者政策を大きく変えようとしている。これまで認めてこなかった「単純労働者」を解禁しようというのだ。

過去の方針を大転換へ


 2日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)や「日本再興戦略」には、「経済・社会基盤の持続可能性を確保していくため、真に必要な分野に着目しつつ、外国人材受入れの在り方について、総合的かつ具体的な検討を進める」との文言が盛り込まれた。

 これだけでは何を意味するのかさっぱり分からないが、自民党政務調査会が直前の5月24日にまとめた「『共生の時代』に向けた外国人労働者受入れの基本的考え方」と併せて読めば理解が進む。

 「基本的考え方」は、今後の外国人労働者の受け入れの議論において「『単純労働者』という用語を使っていくことは不適切である」と指摘し、「何が『専門的・技術的分野』であるかについては、社会の変化にも配慮しつつ柔軟に検討する」としている。すなわち、高度人材と単純労働者の区分けそのものを無くせとの主張である。

 その上で、単純労働者について「必要性がある分野については個別に精査した上で就労目的の在留資格を付与して受入れを進めていくべきである」と求めたのである。具体的に「介護、農業、旅館等特に人手不足の分野がある」との例も示した。

「移民国家」と似た状況


 だが、「基本的考え方」で最も注目すべきは「単純労働者」を受け入れる理由の一つとして「今後、人口減少が進むこと」とした点だ。労働力人口の不足を外国人に頼る方針を明確にしたものだ。

 日本は開かれた国であり、すでに多くの外国人が働いている。「いまさら目くじらを立てるな」という意見もあろう。ただ、安倍政権が打ち出したもう一つの外国人労働者政策を知れば懸念が募る。

 高度人材の永住許可申請に必要となる在留期間を、現行の5年から大幅に短縮するため、世界最速級の『日本版高度外国人材グリーンカード』を創設する構想である。

 日本再興戦略は「高度な技術、知識を持った外国人材を我が国に惹きつけ、長期にわたり活躍してもらうためには、諸外国以上に魅力的な入国・在留管理制度を整備することが必要」と意義を強調している。

 高度人材と単純労働者の区分けを無くそうとする一方で、『グリーンカード』構想では対象を高度人材に絞るというのだから全く矛盾する話なのだが、両政策を併せれば職種にかかわらず世界最速級で永住権を取得できるようにするということになる。

 人口減少対策として受け入れるということは、相当大規模な来日者数を想定しておかなければならない。法務省によれば昨年末の永住者は70万500人だ。もし職種にかかわらず世界最速級で永住権を取得できる国に転じれば、配偶者や子供も含め、その数は大幅に増えるだろう。

 永住者は日本国籍を取得する「移民」とは異なるが、日本に住み続ける以上、社会の主たる構成員であることに変わりない。一定規模になれば日本社会はその存在を前提として回り始め、参政権付与を求める声も大きくなろう。それは、いつの日か「移民国家」と極めて似た社会が到来するということだ。

前提次第で見通し変化


 欧州など多くの国が移民や外国人労働者の対応に悩んでいる。「なぜ日本が欧米の後追いをするのか」といった治安や雇用環境の悪化に対する不安の声は少なくない。だが、それ以前の問題としてすべきことをしていない。人口減少に伴って不足する労働力は一体どれくらいの規模かの精査だ。この視点が、日本における外国人受け入れ議論で決定的に欠落している。

 これまで通りに仕事を進めようとするならば現在の労働力人口が比較基準となる。しかし、前提を変えれば見通しは大きく違ってくる。

 介護を例に引こう。高齢者数も人口減少に伴いいずれ減る。その前に健康寿命の延びで要介護者が減れば、介護ニーズの予測は変わる。イノベーション(技術革新)による省力化をどう織り込むかによっても数字は異なってくる。ボランティアを活用するような介護保険外の仕組みが普及すれば、不足する介護職員数はさらに変わる。

 人口が減るからといって安易に外国人労働者に飛びつけば、後に「思わぬ社会コスト」に苦しむことになる。