小林信也(作家、スポーツライター)

 ドーピング問題でロシアの陸上選手ら多くが出場を認められず、波紋を投げかけた中でリオデジャネイロ五輪が開幕する。IOC(国際オリンピック委員会)がロシア全体の出場停止には踏み切らなかったため、競技によってはロシア選手も大会に参加する。

 ドーピングを取り締まる側と、検査の網の目をかいくぐって違法な薬物を使う選手やコーチたちとのいたちごっこは長年繰り返されてきた。今回のように、ロシアが国家ぐるみでドーピングを行い、確信犯的に隠蔽を図っていた事実に出くわすと、このいたちごっこが今後も続くだろうと暗い気持ちになる。

 ドーピングをしてまで勝利を目指すパターンは大きく分けて主にふたつある。ひとつは、国家として、オリンピックのメダル獲得によって国威発揚を図り、国際的に力を誇示するためだ。これは旧共産圏や新興国に多い。旧ソ連の崩壊、冷戦構造の終焉によって、この手は過去のものになったと思われていたが、今回の告発と発覚でその体質がまだ生きていた事実が明らかになった。
ソウル五輪でカール・ルイス(右端)を破って優勝したベン・ジョンソン(左端)
ソウル五輪でカール・ルイス(右端)を破って優勝したベン・ジョンソン(左端)
 もうひとつは、個人やチームとして、メダル獲得によってスターの地位を獲得し、大きな収入獲得やビジネス展開を目論んでやるパターンだ。1984年のロサンゼルス五輪をきっかけにスポーツの商業化が進み、選手はアマチュアからプロへと大きく転換した。ロス五輪で金メダルを得た陸上のカール・ルイス、女子体操のメアリー・ルー・レットンらはその象徴として、巨額の収入を得た。

 それ以前のオリンピックではいくら金メダルを獲得しても、それをお金に換える方法はそれほど多くなかった。CM出演をすれば現役選手としての生命を失った。陸上選手は公然の秘密だった出場料などを裏金でもらうしかなかった。プロ化が認められて、報酬を隠す必要も、CM出演でオリンピックから引退する必要もなくなった。稼げる時代になっていっそう、何としても勝利を得たいと望む選手の一部はエスカレートし、ドーピングに依存する傾向もさらに強くなった。

 その背景には、「ライバルもやっているに違いない」という思い込みがある。「みんながフェアにやるなら自分もやらない。けれど、ライバルがやっている以上、自分もやらなければ太刀打ちできない」。