潮匡人(評論家、拓殖大学客員教授)

 6月16日、沖縄県・北大東島周辺の接続水域に、人民解放軍(中国海軍)のドンディアオ級情報収集艦一隻が入域した。この情報収集艦は6月15日に鹿児島県・口永良部島周辺の「領海を航行した艦艇と同一」(防衛省)である。つまり前日、日本の領海を侵犯した中国艦が翌日も接続水域に侵入した。そういう経緯である。

 以上は、6月9日未明に起きた尖閣諸島周辺の接続水域への中国海軍ジャンカイⅠ級フリゲート(艦)による侵入を含めた一連の動きとして捉える必要がある。
 9日の接続水域侵入事案では、ロシア海軍の駆逐艦など3隻が尖閣付近の接続水域に入り、北東に航行したあと接続水域から出た。現時点では、ロシアに日本の海を侵犯しようという意図はなかったと考えてよい。

 だが、その動きに合わせるように9日午前0時50分ごろ、中国フリゲートが尖閣諸島の久場島北東の接続水域に入域。海上自衛隊の護衛艦「せとぎり」が監視と無線による呼びかけを続けた。自民党政権に戻り警戒監視体制が強化された経緯が功を奏した。政権交代の効果は外交でも表れた。外務省の斎木昭隆事務次官が深夜午前2時に中国の程永華駐日大使を外務省に呼び、速やかに接続水域外に出るよう強く求めた。中国フリゲートは2時間20分近く接続水域内を航行したあと、午前3時10分、久場島と大正島のあいだを北に向かい、接続水域から出た。
中国海軍のジャンカイI級フリゲート艦と対峙した護衛艦「せとぎり」(海上自衛隊提供)
中国海軍のジャンカイI級フリゲート艦と対峙した護衛艦「せとぎり」(海上自衛隊提供)
 中国の意図はどこにあったのか。海軍の艦艇が尖閣諸島付近の接続水域に入ったのは、今年6月9日が初めてである。これまで中国海警局の公船が領海や接続水域に侵入したことは何度もあったが、軍の艦船が侵入したことはない。中国の「海警」は、国際法上「その他の政府船舶」に当たるが、フリゲートは国際法上も「軍艦」である。実務上、両者は区別されている。現場の隠語でいえば「海警」は「白い船」だが、フリゲートは「灰色の船」である。実際、前者は白く塗装されているが、中国海軍や海上自衛隊には灰色(グレー)の塗装を施した艦船が多い。

 日本の海上保安庁は、海の警察(または消防)である。陸を走るパトカーが白いのと同じように、海保の巡視船は白く塗装されている。他方、軍艦は目立たないよう灰色に塗装される。兵士が迷彩服を着るのと同じ理由だ。まさに一見してわかるとおり、両者の任務や役割、その能力は格段に違う(詳しくは山田吉彦教授との共著『尖閣激突 日本の領土は絶対に守る』扶桑社にて)。

 その「灰色の船」が尖閣に現れ、日本の海に侵入した。当初、中国は民間の漁船や抗議船を差し向けてきた。海上保安庁の制止を振り切り、乗員が不法上陸したケースもある。次が中国政府の公船。「海監」そして「漁政」と派遣される艦船の規模能力が拡大し、昨年12月22日には機関砲を搭載した中国公船が接続水域に侵入。その後、当該船舶は領海も侵犯した。