仲野博文(ジャーナリスト) 
【リオ五輪短期連載 第1回】


低コストでも印象に残る開会式


 5日の開会式も無事に終了し、リオ五輪が本格的にスタートした。『シティ・オブ・ゴッド』や『ナイロビの蜂』を手掛けた映画監督のフェルナンド・メイレレス氏が総合演出として参加した開会式では、ブラジル建国の歴史から地球温暖化問題まで、幾つものテーマがパフォーマンスによって表現され、リオのファベーラ(スラム街)で暮らす子供達による合唱はブラジルに暮らす多くの貧困層もコミュニティの一員なのだというメイレレス氏の主張を感じ取ることができるものであった。また、移民国家ブラジルの歴史を紹介するパフォーマンスで日系移民について触れてくれたことも、多民族国家ブラジルらしい演出であった。

 開会式にかかった費用に関して、現時点で詳細は出ていないものの、複数のメディアは2012年のロンドン大会の半分程度と伝えており、前回よりも低いコストで印象に残る開会式の演出を手掛けたメイレレス氏の手腕を評価したい。前回のロンドン五輪でも、『トレイン・スポッティング』や『スラムドッグ・ミリオネア』といった代表作を持つ映画監督のダニー・ボイル氏が総合演出を担当。こちらもイギリスらしさをユーモラスに表現した開会式であったが、メイレレス氏の演出も甲乙付け難い完成度であった。

開会式で入場行進する日本選手団。旗手は陸上の右代啓祐=5日、マラカナン競技場
開会式で入場行進する日本選手団。旗手は陸上の右代啓祐=5日、マラカナン競技場
 五輪開催前に大きく懸念されていたものの1つが大会期間中のテロであった。欧米諸国やイスラエルとは異なり、ブラジルが国としてテロの標的になることはこれまでほとんど存在しなかったものの、世界中からアスリートや観光客が集まるリオ五輪が狙われる可能性は十分にある。過去にオリンピックを含めた大きなスポーツイベントがテロの標的になったケースは少なくない。

 国際的なスポーツイベントにおけるテロといえば、最近では2013年4月に発生したボストンマラソン爆弾事件が有名だ。ボストンマラソンでも警備は敷かれていたが、ゴール地点近くで観衆に紛れて爆発物の入ったリュックサックを持ち込んだ実行犯を事前に見つけるのは不可能だった。また、昨年11月にフランスのパリで発生した同時テロ事件では、複数の政府要人がフランスとドイツの代表チームによるサッカーの親善試合を観戦していたパリ郊外のスタット・ドゥ・フランスの入場ゲート付近で、自爆テロが発生。不安に駆られた多くの観客が試合後もしばらく、ピッチの上で時間を過ごす様子が世界中に報じられている。

 ボストンマラソン以上に厳重な警備が敷かれるオリンピックだが、大会期間中に大きなテロ事件が発生したケースは意外に少ない。開催国は国の威信をかけて警備を行うが、それでも全てのテロ行為を防ぐことは困難だ。また世界最大のスポーツイベントであるがゆえに、注目度も高く、1つの事件が普段以上に大きなニュースとして取り上げられてしまう。

 オリンピックの大会期間中に発生したテロ事件で最も有名なものといえば、ミュンヘン五輪で発生した人質事件だろう。1972年9月5日、武装したパレスチナゲリラ8名が選手村に侵入。その後イスラエル選手団の宿舎が襲撃され、イスラエル人選手ら9人が人質となった。犯行グループはイスラエル国内に収監されているパレスチナ人の釈放を要求し、その後国外へ脱出するために旅客機が用意された空軍基地に人質を連れて向かったが、基地に配置されていた警官隊と銃撃戦になり、人質全員が死亡している。この事件では籠城する犯行グループの姿などがテレビで生中継され、全世界に配信された。事件後、大会の中止を求める声も相次いだが、30時間以上の中断を経て、大会は再開された。