室伏謙一(政策コンサルタント)

 8月8日、今上陛下は、現憲法において定められた「象徴」としての陛下をはじめとする皇族方の御公務についての「おことば」を、録画ビデオを通じて国民に発せられた。今上陛下におかれては、生前退位の御意向をお持ちとの報道がなされ、「平和憲法」の改正を目指す安倍政権への抵抗の御意志があるのではとの憶測が流れた。(実際に陛下が生前退位、つまりは皇太子殿下への譲位をされたい旨明言されたわけではないので、今回はそれ以上立ち入らない。)

 その後、今上陛下が「おことば」を発せられる御意向と伝えられ、昨日に至ったわけであるが、今回の陛下の「おことば」の意図するところ、いずくにありや。つらつらおもんみるに、陛下の「おことば」は、現在の皇室制度が孕む様々な課題について、御自らのご体調を引き合いに出され、国民に対して問題提起されたものではないかと思われてならない。

連合国軍総司令部(GHQ)
 現在の皇室制度の法的根拠は日本国憲法及び皇室典範であり、直接的には後者である。今回「おことば」が発せられたのを機に、皇室典範を改めて読んでみた。全37条から成り、大日本帝国憲法下で制定された旧皇室典範全62条(其の外に増補が10条あり。)と比べて、簡素な内容である。ここで個別に分析を行うことはしないが、我が国に脈々と続いてきた皇室について、規定する法律としてはあまりにも簡素過ぎるのではなかと思う。

 占領軍によって明治憲法下の様々な制度が解体され、それらを前提としていた旧皇室典範も新たに作り直されることとなった結果ということであろうが、そう短絡的な話でもあるまい。譲位が制度上できなくなったのは明治憲法下の皇室典範から、男系の男子とされたのもまたしかり。江戸時代までは存していた「上皇」(太上天皇)等も規定されていない。その他、皇族は養子をすることもできないという現皇室典範第9条の規定は、旧皇室典範42条と同様の規定である。

 この辺りは皇室典範や皇室制度のご専門の方々に是非解説を願いたいが、占領軍は何を考えて現行の皇室典範を許可したのか、現行の皇室典範の立案過程においては、脈々と続き、積み重ねられてきた有職故実を顧み、それらを踏まえる余裕はなかったのではないかといった現皇室典範に関する事項に加え、そもそも明治憲法下での天皇大権という制度の総括は行われたのか、江戸から明治に変わり、皇室制度はどのように改められたのか整理・把握されているのか、そうした旧皇室典範、戦前の皇室制度に関する事項を明らかにすることによって、現行皇室典範とその課題の根元がより明らかとなり、解決の方向性も見出せるのではないかと思う。

 陛下はご自身の「象徴」というお立場、現行憲法上国政に関する権能を有しない点を「おことば」の中で強調され、皇室制度に具体的に触れられることは避けられた。だからこそ、国民としては、陛下の「おことば」をしっかりと受け止め、象徴であることを前提として、これからの皇室制度の在り方について思いを馳せるべきであろう。生前退位や今上陛下のご体調の話のみに矮小化されるべきものではあるまいし、ましてや時限の特別法による対応など、もってのほかである。 (公式ブログ「政治・政策を考えるヒント!」より2016年8月9日分を転載)