仲野博文(ジャーナリスト)

【リオ五輪短期連載 第2回】

難民オリンピックチームは
不寛容な時代に一石を投じるか


  開催前にロシアが国家ぐるみでドーピングを行っていたとして、多くのロシア人選手が出場を果たせず、観光客や選手が窃盗や暴行の被害にあったというニュースが連日伝えられるリオ五輪。選ばれたアスリートが見せる最高のパフォーマンスに、世界中のスポーツファンが一喜一憂する一方で、大会運営や治安といった競技以外の面では、これからの五輪に残していくべき「レガシー」をあまり見いだせないのが現実だ。しかし、この時点ですでに「レガシー」として今後もぜひ残してもらいたいものが1つある。それは今大会が初の参加となった「難民選手団」の存在である。

オリンピックの旗を先頭に、初めて結成された難民選手団が入場行進を行った(ロイター)
オリンピックの旗を先頭に、初めて結成された難民選手団が入場行進を行った(ロイター)
 今年3月、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は難民で構成された5人から10人程度の選手団がリオ五輪に参加し、各競技に出場することを発表した。参加選手は「難民オリンピックチーム(ROT)」のメンバーとして、リオデジャネイロでオリンピックに参加するが、チームシンボルは出身国の旗ではなく、五輪旗となっているのが特徴だ。最終的にメンバーに選出されたのは10人。国籍の異なるメンバーは、それぞれが内戦などによって住む場所を奪われており、現在は祖国から離れた場所で生活している。

 10人のアスリートの出身国はシリア、南スーダン、エチオピア、コンゴ民主共和国の4カ国で、祖国を離れた彼らは現在、ドイツやベルギー、ケニアといった国々で暮らしている。バッハ会長による難民選手団創設の発表から間もなくして、43人の候補がリストアップされた。選考基準は他のアスリートとは異なり、スポーツの技術的な面に加えて、選手個人の生活環境や、国連に難民として認定されていることの証明も必要であった。IOCは昨年10月、日本円で約2億円規模となる難民アスリート支援基金を設立。同時に各国のオリンピック委員会に対し、それぞれの国でオリンピックの出場基準に達していながら難民として暮らしているアスリートを推薦するよう要請していた。

 その中から最終的に選ばれた10人は、陸上、競泳、柔道の選手で、その中には18歳のユスラ・マルディニ選手も含まれている。シリア国内で女子水泳選手として将来が期待されていたマルディニ選手は、シリアオリンピック委員会の援助を受けながらトレーニングに励み、14歳で世界大会にシリア代表として出場した。しかし、シリアの内戦が激化し、マルディニ選手は姉のサラさんと故郷のダマスカスを離れてヨーロッパに向かうことを決意。ダマスカスから陸路レバノンを経てトルコに入国し、密航業者の用意したボートで海を渡りギリシャを目指した。