仲野博文(ジャーナリスト)

【リオ五輪短期連載 5回目】

“強盗”証言の矛盾を追及した地元警察の意地


 アメリカ人競泳選手のライアン・ロクテは、初出場した2004年のアテネ五輪で2つのメダルを獲得したのを皮切りに、北京大会では4つ、ロンドン大会では5つのメダルを獲得し、競技者としては最後のオリンピックとなる公算が高いリオデジャネイロ大会でもマイケル・フェルプスらと出場した男子4×200mリレーの決勝で見事に金メダルを獲得した。4大会で12個のメダルを獲得したロクテは、アメリカ水泳界におけるスター選手で、ツイッターには120万人近くのフォロワーもいるほどだ。

 アメリカ国内ですでに自身が主役となったリアリティ・ショーが放送されたこともあるロクテは複数の有名企業とスポンサー契約を結んでおり、ロンドン大会直前に経済誌「フォーチュン」はロクテのスポンサー収入が約2億5000万円に達したと報じている。有名ファッション誌の表紙を飾ったこともあり、現役引退後はスポーツ界だけではなく、ショービズの世界やビジネスの世界でも活躍できるのではないかという声もあったほどだ。しかし、リオ五輪期間中に報道陣に対して語った強盗被害の話が捏造されたものであったことが判明し、選手生活の晩節を自ら発した言葉で汚してしまった。
競泳男子金メダリストのライアン・ロクテ選手=8月9日、リオデジャネイロ(AP=共同)
競泳男子金メダリストのライアン・ロクテ選手=8月9日、リオデジャネイロ(AP=共同)
 8月14日、ロクテと3人の米代表競泳選手は、銃を持った4人組に銃を突き付けられ、そのままタクシーから引きずり出されて現金を奪われたと訴えた。翌日にロクテはリオデジャネイロ市内で米NBCテレビの取材に対し、路上強盗を行った4人組は警察官の制服を着ていたと語った。ロクテは16日に早々とアメリカに帰国している。

 リオデジャネイロの治安が極めて悪いという指摘に異論はない。今年1月から5月の間にリオデジャネイロ州で発生した殺人事件は2083件。昨年の同時期と比較して、13パーセントの増加だ。 単純に計算しても、1カ月の間に400人以上が殺害されており、ニューヨーク市や日本全体で1年間に発生する殺人事件の件数を超えている。国連薬物犯罪事務所が発表した統計によると、2014年にブラジル全土で発生した殺人事件は5万674件で、他国を大きく引き離す形で世界ワーストとなっている。年間1万件以上の殺人が発生する11カ国の中で、約半数となる5カ国がアメリカ大陸(アメリカ、ブラジル、メキシコ、ベネズエラ、コロンビア)にあるのも悲しい現実だ。