[韓国の「読み方」]


澤田克己 (毎日新聞記者、前ソウル支局長)


 元慰安婦に対する支援事業を行う韓国の「和解・癒やし財団」が7月28日に発足した。これに合わせたわけではないだろうが、1週間ほど前に元慰安婦の証言を基に制作されたという韓国映画「鬼郷(クィヒャン)」の上映会が東京で開かれた。「最悪の慰安婦映画」(産経新聞)などと評された映画を紹介するとともに、昨年末の日韓合意について改めて考えてみようと思う。なお、日韓合意に対する朴槿恵大統領の姿勢はこの欄で以前も取り上げている。一言で振り返っておくならば、いったん決めたら頑として動かないという朴大統領の性格そのままで、総選挙での敗北など関係なく合意履行へ突っ走ろうとしているというものだ。基本的には、想定通りの展開になっていると言えるだろう。

ソウルの日本大使館前にある従軍慰安婦像(写真:Lee Jae-Won/アフロ)
ソウルの日本大使館前にある従軍慰安婦像(写真:Lee Jae-Won/アフロ)
 さて、映画「鬼郷」である。今年2月に韓国で公開され、359万人の観客動員を記録した。昨年末の日韓合意が大きなニュースとなり、元慰安婦を支援して活発な活動をしてきた韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)などが「法的責任を認めていない」と合意に猛反発したことでさらに人々の関心が高まったという追い風を受けて、封切り直後の2週間で300万人近く動員するという上々の出足を見せた。ただ、その後は息切れしてしまったようだ。1000万人を超える観客を動員するヒット作が多い近年の韓国映画の中では、この観客動員は「そこそこ」という印象だろう。

肩透かしの「強制連行」


 事前に読んだ紹介記事は「一方的な描写ばかりで、ひどい」というようなものばかりだった。だから「いつ主人公の強制連行になるのだろうか」などと構えて見ていたのだが、最初のうちは正直に言えば肩透かしを食らったような感じだった。10代半ばの主人公と友人2人という少女3人が森の中で日本兵を乗せたトラックに出くわしたから、そこで拉致されるのかと身構えたのだが、そんなことはなかったのである。

 上映後に舞台挨拶をした趙正来(チョ・ジョンネ)監督は「反日映画を作ろうとしたわけではない」と強調した。確かに「日本の見方に配慮した」と主張したいのだろうと思われるシーンが散見された。主人公が連れて行かれるシーンでは、銃を担いだ日本兵と一緒に来た朝鮮人らしい男が両親に娘を差し出すよう強要し、母親が泣きながら荷物をまとめて持たせている。男はおそらく朝鮮人業者だろうし、韓国内で流布されている強制連行のイメージよりはマイルドな描写である。道を歩いている少女を片っ端からさらってトラックの荷台に乗せているというイメージが独り歩きしているのだから。

 映画には「いい日本兵」も何人か出てきた。慰安婦の部屋に入ってきて「何もしなくていいから」と休ませる日本兵や、部隊周辺の地図を密かに慰安婦に渡して脱走を手助けしようとする日本兵だ。慰安婦の一人が、恋仲になった日本兵を指して「あの人はいい人。戦争が終わったら結婚しようと言ってくれてる」と話すシーンもあった。後述する処刑シーンでは、慰安婦を射殺するよう命じられながら、どうしても引き金を引けない日本兵も出てくる。

 脱走や処刑という行為そのものに現実味が薄いのでそちらはコメントしようがないものの、自分の持ち時間に慰安婦を休ませたり、慰安婦と結婚しようと言ったりする日本兵というのは、元慰安婦の証言にも出てくる。韓国では通常、そういった日本兵の存在は無視されているので、こうした日本兵を登場させているのは「日本への配慮」か、「きちんと事実と向き合おうとする姿勢」なのだろう。おそらく趙監督としては、ここまで配慮しているのに「反日映画」などと言われたら不本意だと考えるのではなかろうか。その感覚は、私が昨年の著書『韓国「反日」の真相』で指摘した「自覚なき反日」に通じるものだと感じられた。