小林信也(スポーツライター)

 序盤から予想以上の活躍で、日本はロンドン五輪の38個を上回る過去最多41個のメダルを獲得した。金メダルはロンドン五輪の7個から5個増えて12個だった。躍進の要因はなんだろう?

 ひとつに、日本選手の「気質の変化」と「主体性」を強く感じた。特に序盤戦、メダルを獲った選手たちの明るさ、力強さ。自分自身の気持ちで戦い、誰かにやらされている感じがない姿に感銘を受けた。

リオ五輪競泳男子400メートル個人メドレー表彰式を終え、メダルを手に顔を見合わせて笑う1位・萩野公介(右)と3位・瀬戸大也=8月6日 、ブラジル・五輪水泳競技場
リオ五輪競泳男子400メートル個人メドレー表彰式を終え、メダルを手に顔を見合わせて笑う1位・萩野公介(右)と3位・瀬戸大也=8月6日 、ブラジル・五輪水泳競技場
 従来、日本のスポーツは、監督やコーチにやらされ、好きで始めた競技のはずが、いつしか監督・コーチに従属し、支配されている感が強かった。いまも野球など、団体競技の多くはその傾向が残っている。ところが、体操、水泳などの選手たちにそんな雰囲気は感じられなかった。自分の意思が真ん中にあり、技術や戦略の決定も選手自身が行っている。金メダルを獲った体操男子団体にはもちろんコーチ陣がいて、しっかりと選手をサポートしていたには違いないが、それほど前面で目立っていない。団体予選は4位と大きく出遅れた。決勝でも最初に落下があり、厳しいスタートとなった。そこから巻き返しての優勝。これは、やらされている選手には出せない力、自らの意思で勝利への情熱を燃やしたからこそ溢れ出た底力ではないかと感じた。かつての日本は、予選は1位で通過するが決勝の大舞台でもろさが出て負けるイメージだった。ところがリオ五輪では多くの種目でその逆になり、粘り強さが目立った。個人総合で連覇を果たした内村航平も同じ。内村航平のそばに鬼コーチの存在はない。言い換えれば、選手と監督・コーチの関係がいい意味で変わってきたと言えるだろう。

 水泳は平井伯昌コーチをはじめ名コーチの存在がクローズアップされる種目だが、かつての鬼コーチのイメージとは違う。選手の才能を引き出すため、選手を主体にして、コーチの感性や知識・経験を提供し最大限のサポートをしている関係だ。選手は自らコーチを選び、コーチの力を借りている。

 萩野公介は200m個人メドレー決勝、最後の50mのターンを終えたところで5位だった。残る種目は以前なら世界に最も大きな差をつけられていた自由形。ところが萩野はそこから猛スパートし、先行する3選手を抜いて2位に入った。常識を覆す快挙だ。

レスリング女子63キロ級 金メダルを獲得した川井梨紗子は栄和人チームリーダーを豪快に2回投げ、喜びを爆発させる=18日、カリオカアリーナ(大橋純人撮影)
レスリング女子63キロ級 金メダルを獲得した川井梨紗子は栄和人チームリーダーを豪快に2回投げ、喜びを爆発させる=18日、カリオカアリーナ(大橋純人撮影)
 テニスの錦織圭もプロフェッショナルだから当然だが、自分に最適で必要な要素を持ったコーチを選び、自らの力量を積み上げ、五輪の舞台で銅メダルを獲得した。

 卓球の水谷隼も、幼少期、少年期こそ鬼コーチに育てられたが、16歳でドイツ留学する頃には選手として自立し、コーチの支配から卒業して実力を磨き、団体決勝のシングルスでは中国選手を撃破した。

 後半は、女子レスリングを筆頭に、強い師弟関係の勝利もあったが、優勝後に川井梨紗子選手がマットに上がった栄和人チームリーダーを豪快に投げ飛ばして喜びと感謝を表すなど、鬼コーチとの信頼の深さと親近感を印象付けた。明らかに、日本選手の気質、監督・コーチとの関係は変わっている。大いに歓迎すべき変化だ。