[海野素央のアイ・ラブ・USA]


海野素央 (明治大学教授、心理学博士)


 今回のテーマは、「法を守り秩序を回復する候補」です。異例づくしとなった共和党全国党大会でしたが、不動産王のドナルド・トランプ候補は、約75分間の指名受諾演説で、明確なメッセージを発信しました。

指名受諾演説を行うトランプ氏(GettyImages)
指名受諾演説を行うトランプ氏(GettyImages)
 その1つが、「法を守り秩序を回復する候補」です。トランプ候補は、混沌とした米国社会に法と秩序を取り戻すと主張したのです。「私はあなたの声になる」というメッセージも放ち、有権者の声を代弁すると述べました。さらに、同候補は「米国第1主義」を全面に出し、米国の利益を最優先する意欲を示しました。本稿では、これらのメッセージを分析した後で、民主党候補の指名が確実となっているヒラリー・クリントン候補のトランプ候補の指名受諾演説に対する反応について述べます。その上で、民主党全国大会でクリントン陣営が、トランプ候補とクリントン候補をどのように描いているのかについて比較します。
 まず、指名受諾演説でトランプ候補が発した「法を守り秩序を回復する候補」からみていきましょう。米国社会では、南部ルイジアナ州、中西部ミネソタ州及び南部テキサス州で発生した警察官とアフリカ系による相次ぐ銃乱射事件に不安と動揺が広がっています。学校、職場、映画館及び空港などで銃乱射やテロがいつでも起こり得るという懸念が、国民に多かれ少なかれあるのです。トランプ候補の「法を守り秩序を回復する候補」には、白人の警察官とアフリカ系の衝突を解決し、秩序を取り戻すという意味が含まれています。現在、米国社会が直面している状況や雰囲気を察知した同候補は、指名受諾演説の中で不安定要因を挙げて混沌とした社会を描き、自分だけが問題解決ができると豪語したのです。

 ちなみに、トランプ候補が使っている「法と秩序の回復」及び「物言わぬ多数派」は、リチャード・ニクソン元大統領が公民権運動やベトナム反戦運動で混沌とした米国社会の中で発信したメッセージです。同候補は、1960年代後半と現在の社会における混乱及び不安に類似点を見出しているのです。