小林恭子(在英ジャーナリスト)

 6月23日、欧州連合(EU)の加盟是非に関する国民投票で、英国は「離脱」を選択した。開票日当日でさえ「残留勝利」の予想が出る中、驚きの展開となった。離脱派の選挙運動では「国としての主権を取り戻したい」という国粋主義的(ナショナリズム)キャッチフレーズが繰り返され、EUからの移民の流入をどうするかという「移民問題」が大きな焦点となった。

 結果が判明すると、離脱で英国は「孤立する」という報道がなされた。EUに加盟していれば、域内では人、モノ、サービスの自由な行き来が原則で、英国はここから身を引くことになるからだ。「右傾化した英国」という評もあった。EUと縁を切る決断をした英国は、内向きの国という解釈だ。果たして、英国は右傾化したと言えるのだろうか?

二極化した英国


 国民投票の結果を見ると、EU加盟の是非について国民が真っ二つに割れたことが分かる。 離脱支持は全体の51.9%、残留派は48.1%。地域別にみると、北のスコットランド地方、西の北アイルランド、南のロンドンで残留派が圧倒的だったのに対し、総人口の5分の4を占めるイングランド地方の大部分、特に北部で離脱派が優勢となった。同地方北部は南部と比較して所得が低く、失業率は高い。

 また、収入や教育程度がより低い層が高い層よりも離脱を支持していた。年齢層では若者層の大部分が残留を支持していたのに対し、高齢者層は離脱を支持する傾向があった。国内の分裂が表に出て、残留支持派の各紙や政治家などは「国内を統一する必要がある」と主張するようになった。分裂した英国の将来を懸念する報道は海外でもあった。

 しかし、英国で14年ほど暮らす筆者にとっては十分には腑に落ちない気持ちがあった。というのも、階級制の名残がある英国は所得や教育の程度、そのほかの社会的背景によって、もともと分裂している。階級によって英語の発音が違うし、食生活の習慣、娯楽や休暇の過ごし方、交友関係も違う。大学や会社、そのほかの公的な場所で交わることはあっても、プライベートな時間を共に過ごすことはほとんどない。階級のみならず、人種や移民だったら出身国、あるいは宗教などによってそれぞれのつながりを作っている。従って、EU加盟の是非だけで英国が分裂したわけではなく、もともと分裂していた現状が国民投票によって可視化された、と言えよう。

 多くのエスタブリッシュメント(政界、司法界、企業の管理職および知識人)が結果に驚愕したのは、自分たちが支持するEU加盟にノーを突きつけた人たち(非エスタブリッシュメント)の姿がありありと見えたことだろう。エスタブリッシュメントとしては、非エスタブリッシュメントが英国の将来を変えるほどの影響力を持つとは思っていなかった。「今こそ、国として1つにまとめるべき」という主張は既存体制を維持するために必死になっている、エスタブリッシュメント側の自分たちに向かっての叫びにも聞こえる。