宮家邦彦(CIGS研究主幹)

 6月23日の国民投票の結果には一瞬絶句した。英国の大衆迎合型民族主義を過小評価したことを思い知らされた。同日付本紙コラムで筆者はこう予想した。

 ・英国の欧州連合(EU)離脱の悪影響は経済面に限られない。

 ・離脱賛成が過半数を占めるということは、英国有権者が抱く反EUの民族主義的感性が、加盟維持という国際主義的理性を凌駕したということ。

 ・あの英国でも大衆迎合主義的ナショナリズムが本格的に始まったことを意味する。
国民投票の結果を喜ぶEU離脱派の人々
国民投票の結果を喜ぶEU離脱派の人々
 それでも筆者はイギリス人がEU離脱を選択する可能性は低いとどこか楽観していた。最後は英国の理性が感情を抑えると信じたかったのだ。英国EU離脱の経済的悪影響については既に多くの記事が書かれている。本稿では国民投票結果が今後の国際政治に及ぼす影響につき考えてみたい。


力で現状変更厭わぬ帝国


 昨年末あたりから筆者は繰り返しこう書いてきた。

 ・現在世界中で醜く、不健全で、無責任な、大衆迎合的ナショナリズムが闊歩している。

 ・21世紀に入り世界各地で貧富の差が一層拡大した。前世紀後半までそれなりの生活ができた中産階級が没落し始めたからだ。

 ・彼らの怒りは外国、新参移民と自国エスタブリッシュメントに向かう。強い不平等感を抱く彼らは何に対しても不寛容で、時に暴力的にすらなる。

 筆者はこれを「ダークサイドの覚醒」と呼んできた。欧州大陸での反イスラム・反移民の極右運動や米国のトランプ旋風だけではない。中東「アラブの春」運動や中国で習近平総書記が進める反腐敗運動などの政治社会的背景も基本的には同じだ。それがあの英国ですら起きたのだから、もう世界的に定着したと考えてよいだろう。

 この傾向はポスト冷戦期の終焉とともに顕在化し始めた。ポピュリズムとナショナリズムは欧米の自由民主主義的な現状維持勢力を劣化させる一方、力による現状変更も厭わない「帝国」を生みだしつつある。最初は愛国主義者プーチン大統領のロシア。ジョージア、ウクライナ、クリミアなどへの軍事介入がその典型例だ。続いて中国。習近平総書記が進める「中国の夢」も力による現状変更を正当化するものだ。