正木利和(産経新聞文化部編集委員)


 先日、キタの百貨店で、デンマークの名門陶磁器メーカー、ロイヤルコペンハーゲンの皿の絵付けを体験した。筆に顔料をひたし、焼き付ける前に描き込むのが絵付けである。「またひとつ、ガラクタを増やすだけだなあ」と思いながら、童心に帰って2本の筆を操り、なんとか青い染料で植物の柄を描き上げた。

 個人的な話で恐縮だが、ロイヤルコペンハーゲンときくと、反射的に思いだす人物がいる。歌人、若山牧水(1885~1928年)。正しくは、彼を、というより、彼の和歌を、というべきだろう。

 白鳥は 哀(かな)しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ

 かつて、同社製のコーヒーカップを2客、持っていた。バルセロナ五輪の取材からの帰り、「シーガル」というシリーズのものを買ったのだ。それは、牧水の和歌のように、海の「あを」が映った青空のなかを「しらとり」(かもめ)が舞うきれいな絵柄だった。そのうちの1客は、阪神大震災で砕け散ってしまったが、もう1客はいまも澄んだブルーをたたえている。ロイヤルコペンハーゲンの青は、とにかく美しい。そして、なぜか懐かしい。
フローラダニカの絵付けをするペインター
フローラダニカの絵付けをするペインター
 1775年、国王クリスチャン7世とジュリアン・マリー王太后の庇護(ひご)のもと、王室御用達の製陶所としてスタートを切ると、ロイヤルコペンハーゲンの磁器は欧州の王侯貴族の間で人気を博すようになった。特にロシアのエカテリーナ2世への贈り物として、デンマークの植物をさまざまな食器に丹念に描き込んだ「フローラダニカ」は、同国の「国宝」として知られている。加えて青の絵付けで洋風菊やシュロの葉などを描いた「ブルーフルーテッドシリーズ」も、定番としての人気を集めているのだ。

 今回の絵付け体験は、同社が5月1日に開窯240周年を迎えるのを記念して、「フローラダニカ」「ブルーフルーテッドシリーズ」の絵付け師(ペインター)をそれぞれ本国から招いて実演したり、名品の展示を行ったりしたイベントの一貫だった。

 実は、そのイベントのなかで、絵付けよりも興味をそそられたものがあった。旧ロイヤルコペンハーゲン美術館館長で、ヒストリアンのスティーン・ノットルマンさん(67)が語る同社にまつわる歴史の話である。

 「18世紀、海運国家だったデンマークは中国に船団をおくり、陶磁器など中国の品を大量に仕入れては、他国に売るという貿易で大もうけしました。中国との取引は潤うものであるという感覚は、このあたりから始まったのでしょう。ところが、自分たちが作れるものなら、その方がいいんじゃないか、という考えがでてくる。輸送コストがカットできるからです。そこで、デンマークは国家的なプロジェクトとして磁器の製作に取り組むようになるのです」