小幡績(慶應義塾大学ビジネススクール准教授)

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が10兆円以上の損失を出したことが話題になっている。しかし、10兆円の損失自体は問題ではない。問題はその経緯に加え、国民とGPIFの間の信頼関係が存在しないことにある。

 GPIFは2014年10月末にポートフォリオ(資産の構成割合)の変更を行い、これまでの日本国債60%、日本株12%、外国株12%、外国債券11%、その他5%という配分から、日本国債35%、日本株25%、外国株25%、外国債券15%へと大きく変更した。この変更は異例ずくめで、半年前の4月末に運用委員会の委員が1名を除いて全員交代したこと、ポートフォリオの変更は5年に一度の最大の運用委員会の審議事項であったにも関わらず、年度末まで検討せずに10月末という異例のタイミングで発表し、新規の運用委員の任命から半年という短期間で行われたこと、そして、株式への配分を倍増させ、リスクを大幅に増やした革命的な内容変更であったことであった。
東京証券取引所
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 なぜ、GPIFの運用方針は突然変わったのだろうか。

 背景は不明だが、ポートフォリオの決め方ではっきり変わったことが一つあった。それは「リスク最小化」から「リターン優先」に変わったことだ。従来は全額日本国債で運用した場合と同じリスク水準の下でリターンの最大化を目指すというものだった。だから、株式を混ぜることによってリターンが上がっても、分散投資によりリスクは最小のまま維持されてきた。ところがポートフォリオ変更に伴い、厚生労働省が年金制度としてGPIFに要請する目標利回り達成を優先し、それが達成されないことを「下方確率」と呼び、新たにリスクと定義したのである。

 ポイントは二つある。第一に、リスクを取ってリターンを取りに行く方針に180度転換したこと。第二に、年金制度の現行制度維持を最優先し、調整は運用の利回りで行うことを明確にしたことである。だから、年金制度が要請する利回りを達成できないことをリスクと呼び、これを回避することを最優先したのである。