高橋洋一(嘉悦大学教授)

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度の運用で5兆円超の損失が生じたと報じられ、参院選でも野党が追及している。ただ、その内容は、昨年度損失が出たという点だけしか指摘できておらず、骨太のロジックがないため、まったく迫力不足だ。

 5兆円の損失が出たと政権を批判しても、「これまでの累積利益が40兆円以上ある」と一蹴される。返す刀で「民主党政権時代はどうだったのか、ほとんど稼いでいないではないか」と逆襲されてしまう。

 そして運用成績の公表を参院選後にずらしたというのも、過去の公表日にはばらつきがあるので、決定的とはいえない。結局のところ、公的年金の運用対象として株が必要かという本質論について検討しなければ、GPIFへのまともな批判はできない。

 公的年金の運用について、海外の事例から考えてみよう。そもそも一般国民に対する公的年金を運用している国はあまり多くない。年金積立金が多い国の中で、カナダ、スウェーデンが株式投資比率の高い国、日本、米国はそうでない国とされる。英国、フランス、ドイツはそもそも積立金がほぼないとされている。

 GPIFを擁護する人は、前述した国のほか、市場運用を行っている国として、ノルウェー政府年金基金、オランダ公務員総合年金基金、アイルランド国民年金積立基金があるとしている。

 アイルランド国民年金積立基金はあまり規模が大きくないが、ノルウェー政府年金基金とオランダ公務員総合年金基金はそれぞれ30数兆円とそれなりの規模だ。もっとも、ノルウェーは石油収入があり、そのために市場運用しているし、オランダは公務員の年金であり、一般国民の年金ではない。

 GPIFを擁護する民間金融機関からは、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)等の例が出されるが、それらは、国ではなく州であり、しかも州民ではなく、州公務員の年金だ。

 結論をいえば、市場運用ほど国が行う事業として不適切なものはない。サラリーマンの公的年金を運用するGPIFは、この常識に反している。

 年金のバランスシート(貸借対照表)をみると、厚生年金の資産は負債の1割程度にすぎず、ほぼ賦課方式だ。なぜ100兆円以上の積立金を持つのか、先進国での年金財政運営(年金数理の観点)からは説明できない。積立金を持ち、不必要な運用リスクを抱えても、給付額に大差ないからだ。そもそも運用は年金財政に必要ない。

 その観点からみると、積立金は年金運営の流動性を確保するために10兆円程度あれば十分だ。GPIFにこだわるのは、金融機関を含めて、年金資産の運用に関わる利権と考えざるをえない。

 もし積立金を持つとしても、全額非市場性国債の物価連動債で運用すれば、年金数理上は十分だ。この程度の話なら、担当者1人でできるので、GPIFは廃止するのが正しい。