ウクライナ人とロシア人は民族意識の分節化が十分にできていない。こういうところで突然分化が始まると、差異を強調しなければならないので、対立がエスカレートする。 

 ウクライナの政変はソチ五輪期間に発生した。普段ロシアの諜報員はウクライナに入り込んでいるが、五輪期間に国内でテロが起こっては国の面子が立たないため、在外の諜報員をロシアへ戻していた。普段であれば、事前に情報をキャッチし、殺し屋を雇って中心人物を暗殺するなどして抑えているはずだ。プーチン大統領が怒っているのは「お前らよくもこの隙を狙ってやりやがったな」ということ。

暗躍する裏組織


 親露派とは最近になって政治に関与した人たちだ。突然、自称「国家」の長なんかになってしまい、舞い上がっている偶然のエリートに過ぎない。指導者層はロシアの軍人というか、裏世界の組織の人間だ。GRUという昔のソ連軍参謀本部情報総局、今のロシア軍参謀本部情報総局。兵器販売ライセンスを保有しているので、資金力があり、独立王国になっている。予備自衛官の情報番みたいなもの。こういう連中がデタラメをする。

 プーチンは制御できるが、あえて見て見ぬふりをしている。西側や米国、ウクライナが言っているような、「プーチンが傀儡政権を作っている」という見方は間違っている。この連中を放っておけば何かするのは分かっているが放置している。不作為の責任がある。

  Masaru Sato 196085  2009
佐藤 優( Masaru Sato)さん 作家、
元外務省主任分析官。1960年生まれ。
85年同志社大学大学院神学研究科
終了後、外務省に入省。
在ロシア日本大使館、国際情報局
分析第一課などで勤務。
2009年背任と偽計業務妨害の有罪確定。
『国家の罠』で毎日出版文化賞特別賞、
『自壊する帝国』で 新潮ドキュメント賞
および大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
 ポロシェンコ政権の影の主役はトゥルチノフ最高会議議長。昔の秘密警察の長官で、以前KGB系の連中をすべて切り、米CIAと英SISのノウハウを入れて新しい秘密警察をつくった。米国との裏の連絡はこの人物が担い、空爆を決定したのも彼だ。

 この問題のケリをつけるのはプーチンだろう。取り引きする相手はウクライナでなく、オバマだ。ロシア人やロシア系だと思っている人たちへのジェノサイドが起きたりすると、軍事介入もありうるが可能性は低いだろう。だらだらと今の状況が続くはずだ。

 落としどころは簡単で、ウクライナを連邦制にすればよい。東部、南部については自己決定権を与えるが、外交、安全保障はキエフ政権が担う。独自軍の保有や独自外交は認めない。ただしロシアが連邦制を提案し、ウクライナはこれを拒否しているので、連邦制でなく別の名をつけないといけないだろう。

 この軟着陸を阻害する要因は、率直にいうとお互いにまだ殺し足りないことだ。これ以上犠牲が出るのは嫌だとお互い思わないと、和解は成立しない。満足のいく犠牲者の数がどのぐらいかというと、定量的には表せない。ある国では何十人だが、ある国では何万人。時期によっても変わる。そのラインに達したとき、和解は成立する。

 これは両者とも悪。毒ヘビ対毒サソリの戦いなので、日本は加わらないほうがよい。米国が来させるなと言っているようだが、プーチンは来日させるべきだ。来させて「おかしいことをしている」と文句を言えばよい。逃げる必要はない。それと現実を見据える必要がある。オバマはじきにいなくなるが、プーチンはあと10年はいる。 ただしこの外交ゲームに入り過ぎてもいけない。日米同盟の基本線は崩す必要はない。北方領土や対中牽制のほうがよっぽど大切だ。