【あの有名人から学ぶ!がん治療】


長尾和宏(長尾クリニック院長)


 2005年に人間ドックで早期の胃がんが発見されるも早々と治療に専念、奥様の献身もあって、見事に病を克服した大橋巨泉さん。術後毎年受けていた定期健診でも、悪いところは見当たらず、がんで胃を二分の一ほど摘出したために、体重が80キロから72キロに落ちたことも、血糖値やコレステロール値が下がったことも、一種のダイエット効果であり、ゴルフの成績もすこぶる良いと、メディアを通して誇らしげにお話をされていました。

 そして、その約10年後に書かれた著書『巨泉の遺言撤回』(2014年、講談社刊)のプロローグではこう綴っています。

 こんなに楽しい、充実した生活を送れるなら「70代万歳」で、妻の寿々子と二両連結人生(田舎の汽車のようにどこへ行くにも二人で繋がっている)は、万々歳に完結して、さらに充実した80代を迎えるはずであった。意気揚々とオセアニアに向かう直前、本当にわずか3日前に妙なものを発見した。そしてそれが「闇」の入り口だったとは

 2013年11月、巨泉さんは、右耳の下にぷっくりとした膨らみがあることに気が付きました。痛くも痒くもありませんでしたが、念のためがんセンターに検診に行ったところ、中咽頭がんのステージ4と診断されました。右耳の下に触れたものは、中咽頭がんがリンパ節に転移してできたがんだったのです。
大橋巨泉さんが「11PM」を降板する際、集まった出演陣。前列左から松岡きっこさん、愛川欽也さん、藤本義一さん、朝丘雪路さん、高樹澪さん、大橋さん=昭和60年9月
大橋巨泉さんが「11PM」を降板する際、集まった出演陣。前列左から松岡きっこさん、愛川欽也さん、藤本義一さん、朝丘雪路さん、高樹澪さん、大橋さん=昭和60年9月
 中咽頭がんの発生頻度は比較的稀で、我が国では、年間1000~2000人程度。圧倒的に男性に多いのも特徴です。アルコールやタバコが主な原因と言われていますが、巨泉さんの場合、検査によってウィルス性の中咽頭がんであることがわかりました。

 昨今、子宮頸がんの原因として耳にすることも多いヒトパピローマウィルス(HPV)ですが、実は、他のがんにも関与することが明らかになってきました。日本では、中咽頭がんの2割程度はウィルス性というデータもあります。HPVは決して、男性には関係のない話ではないことを覚えておいてください。ウィルス性の中咽頭がんの場合、放射線治療が有効であることがわかっています。

 巨泉さんはこのとき、転移していたリンパ節のがんを手術で摘出し、大元のがんは放射線治療を選択しました。このように、ステージ4と言われても、その状態は、がんの種類やできた場所によって様々であり、決して何もできないわけではないし、何もしないほうがいいわけでもありません。現にことのとき、巨泉さんは、担当医に「完治します」とお墨付きをもらっています。

 巨泉さんは同年の12月から2カ月にわたり、35回の放射線照射を受けました。酷い口内炎や喉の痛み、味覚の変化、食欲減退に耐えながらも、最後まで照射を続けます。ガリガリに痩せたと著書に書いておられます。しかしその努力の甲斐あって、2014年2月に、「がんは死んだ」と病院は判断したそうです。