上念司(経済評論家)

 日本とフランスがモタモタしているうちにロシアが先を越してしまった。昨年の12月10日、ロシアがスヴェルドロフスク州に建設を進めてきた高速増殖炉が運転を開始し、送電線に接続された。

 この高速増殖炉はベロヤールスク原子力発電所に建設されたBN-800型で、出力は78万9000キロワットである。同じ技術を使った「もんじゅ」の約3倍の大型炉であり、フランスが1990年代にフランスが運用していた「スーパーフェニックス」に次ぐ歴代2位の規模だ。

発電を始めたロシアの高速炉の実証炉「BN800」(ロスアトム提供)
発電を始めたロシアの高速炉の実証炉「BN800」(ロスアトム提供)
 ロシアは旧ソビエト時代から高速増殖炉の研究を始め、今回実用化されたBN-800型の1つ前の型の実験炉であるBN-600では35年の運用実績を誇っていた。BN-800の開発が始まったのは1987年からなので、なんと28年かけてようやく実用化に成功したことになる。もちろん、その途中ではチェルノブイリの大事故や、ソ連崩壊による財政難など様々な困難があった。しかし、幾多の困難を乗り越え、今年の8月17日にBN-800はついにフルパワーでの運転に成功した。ロシアのロスアトム社のプレスリリースには次のように書かれている。

 《8月17日、ロシアのベロヤールスク原子力発電所の第4ユニットが、初めてフルパワーでの作動を開始しました。その第4ユニットである800MkW BN-800は、燃焼しながら新しい燃料物質を生成するウランとプルトニウム酸化物の結合により補給されます。この原子炉は、今年後半に商業用に作動する予定です》

 高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)は、核分裂によって発電しながら消費した以上の燃料を生み出す不思議な原子炉だ。その仕組みを簡単に説明しよう。
ウランには核分裂に適した放射性同位体のウラン235とそうでないウラン238がある。実は原子力発電に適したウラン235は自然界に存在するウランの0・7%でしかない。大半は核燃料としては不適格なウラン238だ。

 高速増殖炉は炉心の周りをウラン238で囲み、炉心が核分裂することによって出る中性子にウラン238をぶつける仕様になっている。ウラン238に中性子が高速で衝突すると、プルトニウム239という別の物質が生まれる。このプルトニウム239こそが原子力発電に適した核燃料となるのだ。つまり、高速増殖炉は炉心にある核物質を核分裂によって消費しつつ、発生する中性子を利用して新たな燃料を作り続けることができるのだ。しかも、発生するプルトニウム239の量は、消費される核燃料よりも多くなる。高速増殖炉が「増殖」と言われる所以は、まさにこの燃料の「増量」にあるのだ。

 実は、この高速中性子の照射を使うことで「減量」もできる。原発の使用済み核燃料の中に含まれる高レベル放射性廃棄物には半減期が数万年単位の「高寿命核種」がある。これに対して、高速中性子の燃料照射を行うと、ウラン238がプルトニウム239になったのと同じ反応が起こり、高寿命核種を短寿命核種や非放射性核種に分離・変換することが可能だ。「増量」に使うのか、「減量」に使うのかは、その国の置かれた状況次第ということになるだろう。

 ただ、ここに一つ技術的な課題がある。ウラン238に中性子をぶつけるためには、中性子を減速せずにそのまま使わなければならない。そのため、通常の原子炉にあるような制御棒では中性子を吸収してしまうので不適格だ。よって、高速増殖炉は冷却材として、中性子を減速・吸収しにくいナトリウムを使用している。