発明対価問題 企業と技術者になお溝 「頭脳流出」歯止めへ対話必要

『産経新聞』 2006年10月18日

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 CDやDVDなど光ディスクの読み取り技術の発明に関する特許訴訟の上告審判決で17日、日立製作所が元社員に支払うことが確定した約1億6300万円は、職務発明をめぐる訴訟では過去2番目の高額だ。日立は「報奨制度を変えても裁判所は次々と新たな判断材料を持ち出してくる」と不満を募らせている。多くの大手企業が技術者への報奨制度を導入・改善してきたが、今回の判決は、企業と技術者の間の溝が依然として埋まらない現状を浮き彫りにした。(田端素央)

 「技術者は会社に、いくらまで発明対価を要求できるか」

 こんな命題を産業界に投げかけた青色発光ダイオード(LED)裁判は、平成16年1月の一審判決で日亜化学工業に、開発者である中村修二氏に発明対価の一部として200億円(17年1月の控訴審和解で6億円に減額され、遅延損害金を含めて8億4000万円)を支払うよう命じた。

 この判決が関係各方面に与えた衝撃はあまりに大きかった。

 当時、企業側は「リスクを負わない社員が巨額報酬を求めるべきではない」と主張。これに対し、技術者は「報奨金は会社が勝手に決めた『ご褒美』にすぎない」と強く反発した。技術者が意欲を持たなければ、青色LEDなどの大発明は生まれないからだ。

 国は技術者のそんな不満を「知財立国」戦略の妨げになると判断し、17年4月、特許法を改正。企業が発明対価を決める際は従業員と話し合い、対価に合理性を持たせるよう求めた。この結果、特許報奨金を支給する企業はすでに7割を超えたが、労働政策研究・研修機構の調べでは、報奨金の水準設定などで「問題点が残る」とする企業は44・5%に上っている。

 今回、最高裁は「海外特許についても対価の請求が可能」などの初判断を示したが、日立には、これも不条理に映り、「発明を奨励する会社の意欲をそぐ判決だ」(平山裕之知的財産権本部長)と批判する。

 一方で、技術者側も司法判断に満足しているわけではない。青色LED訴訟で中村氏は、和解金の算定根拠のあいまいさを指摘し、「日本の司法は腐っている」と言い捨てた。司法が企業と技術者の溝をさらに深めたようにも見える。

 技術者にとっては、一部の企業が技術流出防止のため特許を公開しない「ブラックボックス」化を進めていることも、「特許の対価」が算定できない点で不利に働く。

 ある電機大手では、報奨金が1件当たり最高で数千万円にとどまる。こうした待遇に嫌気がさした優秀な技術者は海外企業に次々に「ヘッドハンティング」されている。「頭脳流出」に歯止めを掛けるために、企業は、改正特許法が求めている「技術者との対話」を深めなければならない。

                     ◇

 元日立研究員、米沢さん「技術者に勇気、福音」

 原告の元日立製作所研究員、米沢成二さん(67)は17日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、「日夜頑張っている企業で働く技術者を勇気づけ、日本の技術開発の活性化に福音となることを願う」と述べ、最高裁判決を評価した。

 一方で、「本来なら個人が永年勤続した企業と裁判で争うのではなく、経済産業省、特許庁、法曹界が中心になって議論して決めるのが筋だったと思う」と指摘。さらに、「技術がグローバル化している中で、海外での特許登録分を別に扱うことは技術立国としてあり得ない」と語った。

 代理人の升沢英俊弁護士は「技術者や技術者になろうという若い人たちに、目の色を変えさせるきっかけになる歴史的意味を持つ判決。海外での特許登録分を認めた以上のものがある」と述べた。

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