春香クリスティーンがゆく(1)

(COURRiER Japon 2016年3月9日
 難民が大量にヨーロッパに押し寄せている。そのために、さまざまな問題が発生している。最初は受け入れに寛容だったEUの国々も、あまりにも数が増えて、さすがにもう無理だって悲鳴を上げ始めている。スウェーデンは国境審査を再開したし、デンマークは難民の財産没収法案を可決した。その気持ちも、すごくわかる。だからこそ気になったんです。実態はどうなっているんだろうって──。

  2015年の年末から年明けにかけて、「バルカンルート」と呼ばれる難民の移動経路をたどりました。ギリシャ、マケドニア、セルビア、クロアチア、スロベニア、オーストリア、そしてドイツ。およそ2000㎞の道のりです。時間の制約があるので飛行機を利用することもあったけれど、おもに陸路での移動です。同行スタッフは、ビデオカメラマンとスチールカメラマンのみ。現地でアラビア語やギリシャ語の通訳の方を伴うことはありましたが、取材は私自身が行いました。

 最初に訪れたのは、中東からヨーロッパを目指す難民の玄関口といわれる、ギリシャのレスボス島です。首都アテネからは飛行機で約1時間。エーゲ海屈指のリゾートで、ヨーロッパ中からバカンス客が訪れる場所です。そんな絵に描いたような観光地にいま、1日3000~8000人の難民が、命がけで渡ってきている。その現実と目の前の美しい風景とのギャップに、なんともいえない違和感を覚えました。

 私が島に渡った日はたまたま天気が良く、穏やかで、波もほとんど立っていませんでした。おそらく、通常に比べたら格段に渡りやすいコンディションだったと思いますが、実際に難民たちがゴムボートで密航してくる光景を目の当たりにして、本当に驚きました。水平線の彼方に目を凝らしていると、暗闇の中にかすかに「点」が見えてくる。それが密航船でした。小さな黒い点にしか見えなかったものは、じつは大海原に漂う命の塊だったのです。
ゴムボートはすし詰め状態(撮影・菱田雄介)
ゴムボートはすし詰め状態(撮影・菱田雄介)
 近づいてきた密航船を見て、言葉を失いました。ボートの縁に何重にも人が鈴なりになっていて、内側には女性や子供が積み上げられるように座っている。定員10人程度のボートに、50~60人が折り重なって乗っているのです。そんな状態でかろうじてバランスをとりながら、1時間あまりかけて海を渡ってくる。

 しかも、操縦しているのはプロではなく、舵取りもにわか仕込みの難民です。ボートの操作方法もわからなければ、どこにたどり着けばいいのかもわからない。当然ながら港がどこにあるかもわからないので、とにかく向こう岸を目指し、陸が見えたらそこを目的地と定めて突き進んでくるのです。そこに岩礁が潜んでいたりしたら、ボートはたちまち転覆して冬の海に沈んでしまいます。

  一瞬一瞬が命取り。そんな航海を終えた安心感からか、港が近づいてくると自撮り棒を取り出し、ボートの上で記念撮影をする難民も。これにはちょっとビックリしました。