上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)


 新規抗がん剤ニボルマブ(商品名オプジーボ)が話題だ。その理由は高額な薬剤費。肺がん患者に1年間使用すると、薬剤費は約3500万円もかかる。このままでは「医学の勝利が国を滅ぼす(里見清一医師)」ことになりかねない。4月には財務省の財政制度審議会でもやり玉にあがった。
本庶祐・京大客員教授との共同開発で小野薬品工業が発売するオプジーボ
本庶祐・京大客員教授との共同開発で小野薬品工業が発売するオプジーボ
 ニボルマブは、小野薬品がブリストル・マイヤーズスクイブ社(ブ社)と協力して開発した画期的な抗がん剤だ。リンパ球の一種類であるT細胞の表面に発現するPD-1分子に結合することで、がん細胞に対する免疫を活性化させる。世界で初めて実用化されたがん免疫治療薬で、開発者である本庶佑・京大名誉教授はノーベル賞の有力候補となった。小野薬品が臨床開発の候補として白羽の矢を立てたのは悪性黒色腫だ。皮膚癌の一種で、以前から免疫治療に反応しやすいことが知られていた。

 年間の発症数は2000人程度と少ない。治療薬を開発する企業には、優遇措置が与えられる。例えば、患者数5万人以下の疾病を対象とした薬剤は「希少疾病用医薬品」に認定される。承認審査は優先され、高い薬価がつく。

 14年7月、ニボルマブは悪性黒色腫の治療薬として承認された。世界初の承認だったことが話題となった。この時は、体重1キロあたり2mgを3週間に1回投与することが推奨された。薬価は100mgの静注製剤で72万9849円に決まった。年間470人が使用すると想定され、原価は積み上げ方式で45万9778円と算定された。さらに、画期的な新薬であるため、利益率は標準の16・9%の6割増しとなった。この結果、体重60キロの患者の年間の薬剤費は約1500万円となった。

 小野薬品は当初の予定通り、悪性黒色腫以外のがんの開発も進めた。そして15年12月には、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんにも適応が拡大された。この時の治験では、ニボルマブを投与された患者の生存期間は約3カ月延長し、治療から2年の段階で2割の患者が生存していた。

 注目すべきは、投与量は世界標準である体重1キロあたり3mgを2週間に1回投与するように増量されたことだ。この結果、1年間の薬剤費は約3500万円に跳ね上がった。肺がんの患者数は悪性黒色腫とは比べものにならない。もし、日本の肺がん患者10万人の半分が1年間、ニボルマブを投与されれば、薬剤費の総額は1兆7千億円になる。これは日本の総薬剤費を2割程度押し上げる数字である。

 肺がんに適応を拡大した際、ニボルマブの投与量は2倍以上に増えた。患者も100倍程度増えた。「希少疾病用医薬品」の主旨に照らし、薬価を引き下げるべきだ。子どもでも分かる理屈である。