山浦卓(薬剤師・医学博士)

 これまでになかったメカニズムで抗がん作用を示す、「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれるオプジーボ(小野薬品工業(株)、一般名:ニボルマブ)が話題だ。ざっくり言えば、オプジーボはがん細胞をアポトーシス(細胞死)へと導く役割を持つ「活性化CD8陽性T細胞」ががん細胞によって不活性化(無効化)されにくくすることで、患者自身がもつ免疫力を高める機能を持っているというところが、がん細胞に直接的な攻撃を仕掛けて増殖を抑えて死滅させていた従来の抗がん剤と違う点である。

 有効例では持続効果が長いことや、今のところは食欲不振や疲労感の他、数項目の副作用はあるものの、重篤な副作用の発現頻度は他の化学療法よりも低いとの報告があり、既存の抗がん治療を受けていた患者にとっては「夢の特効薬現る!」といきたいところだが、臨床で用いられて日が浅いことから今後予期せぬ副作用が発現する可能性もあるので、楽観視は出来ない。また未知の副作用の心配もさることながら、もっと大きな問題が横たわっていた。

 オプジーボは2014年9月に根治切除不能な悪性黒色腫(メラノーマ=皮膚がんの一種)への適応を承認され、さらに2015年12月には切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌への効能が追加承認された。ここにきて医療従事者だけでなく、にわかに巷間の衆目を集めた理由は、この薬をがん治療に用いた際にかかる莫大なコストだ。

 この問題を提起された、日本赤十字社医療センター化学療法科部長の國頭英夫氏(専門は胸部腫瘍、臨床試験方法論)の試算によると、体重60kgの患者が1年間、オプジーボを使うと年3500万円の費用がかかる。

 氏は追加承認された非小細胞肺癌の患者数を約10万人強と推定。早期がんなどを除き、オプジーボの対象になる人を5万人程度に対して1年間投与すれば3500万円×5万人で、1兆7500億円となる計算だ。2013年度の国民医療費、約40兆円のうち薬剤費は約10兆円なので、いきなり2割近くもの薬剤費が跳ね上がることになる。医療費や薬剤費はその約4分の1は国家予算に占める社会保障費で賄われているので、単純に考えても4000〜5000億円レベルの影響が出るということになる。

 ところでこの問題は、オプジーボに設定されている超高額の薬価に端を発していることが明らかだ。新しい薬が開発された際の薬の価格(薬価)は、既存の類似薬が無い場合は、厚生労働省中央社会保険医療協会(中医協)にて定められた、「原価計算方式」と呼ばれる方法で薬価を算定される。下図シミュレーションを参照のこと。
 ※2015年4月現在、注4の営業利益率は16.2%、既存治療と比較した場合の革新性や有効性、安全性の程度に応じて、平均的な営業利益率の-50%~+100%の範囲内の値を用いることとなっている。(出典:2015/03/20 m3.com 医療維新レポート)