中山祐次郎(外科医、都立駒込病院 大腸外科医師)

 抗がん剤が医療費を跳ね上げる時代が来ている。そして医療費はおろか、日本経済を破壊しかねない可能性がある。かねてより筆者は、徐々に高価になってきた抗がん剤の薬価(薬の値段)に強い危惧を持っていた。今回新しい抗がん剤が承認されたことを機に、抗がん剤の薬価について論じたい。
 平成27年12月17日、厚生労働省は「オプジーボ(一般名 ニボルマブ)」という新しい抗がん剤を肺がんに対して承認した。この薬はもともと皮膚がん(正式には皮膚悪性黒色腫)に対する抗がん剤として以前から使われていた薬剤で、今回は適応拡大(ある病気にのみ適応となっている薬が、他の病気にも新たに適応となること)の決定となった。

 この抗がん剤はこれまでの抗がん剤と違い、免疫に作用することで効果を発揮するという新しい作用機序 (薬が作用し効果を示すためのシステム)を持つため、業界でも大変注目を浴びている。ただ、劇的な効果を持つというわけではなく、例えば肺がんに対する従来の治療法、ドセタキセルという抗がん剤と比べ、生存期間を約3ヶ月延長する(扁平上皮がんでは6ヶ月→9.2ヶ月、非扁平上皮がんでは9.4ヶ月→12.2ヶ月)というものだ。

 そして、肺がん以外での承認を目指し他のがんの領域でも様々な臨床試験が行われている。

 効果がある新薬の登場は医療現場としても喜ぶべきものだが、今回は手放しで喜べない事態となっている。それは、この薬の価格だ。

 肺癌学会ホームページによると、このニボルマブの薬価は1ヶ月で約300万円。筆者の計算でも332万4622円となった(計算の詳細は下記の※)。これは以前使われていたドセタキセル、ジェネリック薬を使えば1ヶ月で5万円以下であることを考えれば、異常に高価である。

 販売元である小野薬品工業株式会社は、このようなファイルを公開している。

 これによると、平成28年度3月期の売り上げは212億円であり、1年後の平成29年3月期の売り上げは1260億円になると予想している。この極端な増加はもちろん今回の肺がんへの適応拡大により使用する患者さんが増えることによるものだ。さらに計算をすると、一年使ったとして300万円×12ヶ月=4200万円。これを製薬会社が推定している新規使用患者数の15,000人が使うと、4200万円×15,000人で6300億円だ。同じ人数が使ったとして2年で1兆円を超す。