加谷珪一(経済評論家)

 ドイツ銀行の経営破たん懸念がにわかに高まっている。同行の株価は一時10ユーロを割り、利上げ観測後退で楽観ムードとなっていた米国の株式市場にも冷や水を浴びせた。一部からは、欧州危機が再来するとの声も聞かれるが、よく見ると事情はもう少し複雑だ。ドイツ銀行の経営は確かに厳しい状況だが、これが欧州全体の危機に結びつく可能性は今のところ低い。むしろ一連の破たん懸念は、政治的色彩を帯びている。
株価が大幅に下落した米ニューヨーク証券取引所のトレーダー(ロイター)
株価が大幅に下落した米ニューヨーク証券取引所のトレーダー(ロイター)
 ドイツ銀行の経営が苦しくなっていることは、かなり以前から知られていた。2015年7月時点で30ユーロを突破していた同行の株価は急速に値を下げ、今年の4月には15ユーロを切った。直近ではさらに株価が下がり、一時は10ユーロを切る水準まで売り込まれている。欧州ではイタリアの銀行の不良債権問題が取り沙汰されており、特に多額の不良債権を抱えているモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)は危機的な状況と言われる。
 
 EU(欧州連合)の銀行監督機関であるEBA(欧州銀行監督機構)は7月29日、欧州主要51行の健全性を点検するストレステストの結果を公表している。それによるとモンテ・パスキは、2018年にかけて欧州域内の景気が一時マイナス成長に陥るという事態が発生した場合、同行の中核的自己資本比率が、マイナス2.44%になるという厳しい結果となっている。同行は50億ユーロ(約5700億円)の増資を含む再建策を発表しているが、不良債権処理と増資がスムーズに進むのかは何とも言えない状況だ。

 これに対してドイツ銀行は、同じ条件において7.8%の自己資本比率を維持している。こうしたシミュレーションは条件設定で大きく結果が変わる可能性があるが、モンテ・パスキのような銀行と比較した場合、ドイツ銀行は過大な不良債権によって、すぐに存続が危ぶまれるというほどの状況ではない。さらに言えばドイツ経済は成長が鈍化しているものの、まずまずの状況が続いている。2015年の実質GDP(国内総生産)成長率は1.5%、2016年についても1.6%が見込まれている。失業率も過去最低水準だ。

 ではなぜドイツ銀行の経営破たんが懸念される事態になっているのだろうか。それは、マイナス金利の導入によって銀行の利ざやが急激に減少し、利益を確保することが難しくなっているからである。銀行は預金など低金利の手段で資金を集め、比較的に金利の高い商品に投資したり、資金を融資することで収益を得ている。マイナス金利が導入されてしまうと、この利ざや限りなく小さくなってしまうため、融資業務に依存する銀行の経営は厳しくなる。