近藤駿介(評論家、コラムニスト)

 奇しくも8年前の2008年に世界を震撼させたリーマン・ショックが発生した9月15日、米国司法省がドイツ銀行に対して、過去の住宅ローン担保証券(MBS)の販売を巡って140億ドル(約1兆4000億円)という巨額の和解金支払いを要求していることが明らかになった。
 過去のMBS販売を巡っては17の金融機関が訴えられており、すでにJPモルガンや(130億ドル)、米シティ(70億ドル)、バンク・オブ・アメリカ(166.5億ドル)など複数の米国大手金融機関が多額の和解金を支払ってきている。

 したがって、ドイツ銀行に和解金支払い要求があることは周知のことでもあり、ドイツ銀行の順番が回ってきたということに過ぎないともいえる。

 それでも市場に大きな影響を及ぼしたのは、司法省の要求した和解金が140億ドルと、ドイツ銀行が和解金のために引当てた60億ドルを大きく上回る規模で、2016年2月にも債券利払い懸念に見舞われた現在のドイツ銀行にはとても支払える額ではなかったからだ。

 ドイツ銀行の支払い能力に対する疑念が高まったことでドイツ銀行の破綻懸念も高まり、株価は大きく下落することになった。しかし、株価の下落幅を事の重大さを測る基準にするのは危険なことだ。今回ドイツ銀行の株価が大きく下落した背景には、ドイツ銀行が発行していたCoCo債(Contingent Convertible Bonds:偶発転換社債)の存在があったからだ。

 CoCo債は、発行体である金融機関の自己資本比率が予め定められた水準を下回るなど経営に問題が起きた際に、発行体の意思で元本の一部または全部を削減したり強制的に株式に転換したりすることができる条件の付いた特殊な債券である。

 ドイツ銀行は46億ユーロ(約5240億円)のCoCo債を発行しており、仮にドイツ銀行が経営危機に陥った場合、このCoCo債は強制的に株式に転換される可能性がある。経営危機に直面した発行体の株価は通常大きく下落するので、CoCo債が株式に転換される事態になれば、安い株価で大量の株式が発行され株式の希薄化を招くことになる。こうした希薄化を嫌がる投資家は株式の売却に走り、株価下落を加速させることになる。

 米司法省がドイツ銀行に多額の和解金を要求したことが明らかになった9月中旬からのドイツ銀行株急落の背景には、ドイツ銀行に対する経営不安に加え、CoCo債を発行していたことによるテクニカル的要因が加わっていたことを忘れてはいけない。