児玉克哉(社会貢献推進機構理事長)

 この10年のメルケル首相をトップにしたドイツの存在感は素晴らしかった。メルケル首相は、2005年11月22日に首相に就任してから「ドイツのお母さん」と称され、高い支持率を誇ってきた。ドイツ経済も好調で、EUを牽引する役割を担った。ちょうどこの時期は日本が混乱し続ける時期であった。経済は低迷を続け、1年ごとに首相が交代し、国の方向が定まらない状態であった。メルケル・ドイツはヨーロッパの盟主として、アメリカに対抗できる国際的な影響力をもってきた。
 そのドイツに異変がみられる。

1.中国との関係
 メルケル・ドイツは中国との蜜月関係を持ち、それがお互いに大きな利益をもたらしてきた。10年余りの就任期間でメルケル首相が中国を訪問したのは実に9回だ。ドイツと中国との距離を考えると異常な回数だ。ちなみにメルケル首相の日本訪問はわずかに3回だ。しかもそのうち2回は洞爺湖サミットと伊勢志摩サミットのサミット参加で、残りの1回はエルマウ・サミットに向けた事前調整のためというから、サミット絡みだけといっていい。メルケル首相の親中のスタンスは明らかだ。

 ドイツと中国の貿易は拡大し、ドイツ経済の成長の柱となった。中国は生産拠点としても、大市場としても魅力のある国であった。経済の発展が素晴らしい時には様々な不平等的な問題も隠されてきた。ドイツと中国は密接なパートナーとして活動し、中国はEU、つまりヨーロッパへの参入権を得た形になった。しかし、中国経済の成長が鈍ると、問題が噴出してきた。中国との貿易が停滞しながらも、ドイツ企業は撤退しようにも撤退できにくい状況に置かれる。しかし、中国の企業はドイツの優良企業を買収していく。中国家電大手の美的集団は、ドイツの産業用ロボット大手クーカを買収した。中国との貿易は好調な時には問題が隠されるが、不調になると問題が噴出してきた。中国との貿易拡大で成長してきたメルケル・ドイツは方向転換を迫られている。

2.ロシアとの関係
 これも重要なポイントだ。EU諸国はプーチン・ロシアにはやや距離をおいた付き合いをするが、メルケル首相は、親露政策を打ち出してきた。特にロシアの油田・ガス田にはドイツ企業は多額の投資を行い、原油や天然ガスを買ってきた。原油価格が高騰する時期と重なり、ロシアにもドイツにも多大な収益をもたらした。アメリカの敵といえるロシアと中国と連携を強め、ヨーロッパをまとめるという戦略をとったのだ。そしてそれがことごとく経済的にもあたった。しかし、これも原油価格が急落すると状況が一変する。そしてその時期がロシアがウクライナと問題を起こす時期と重なる。ロシアとの関係も見直さざるを得なくなる。