ノーベル賞 中村修二氏が語る 日本がイノベーションを起こすために

『月刊Wedge』 2015年1月号

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【WEDGE REPORT】

歴史を教える日本、最先端の知識を教えるアメリカ


 私の所属するUCSB(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)では、「大学教授たるもの、どんどん外へ出て、生きた知識を吸収し、それを学生に教えるべし」とされている。
2014年ノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏(写真:小平尚典)
 「外へ出る」というのは、自分でスタートアップを立ち上げるとか、企業のコンサルティングをするということを指す。そうして得た最先端の知識を学生に教える。

 教授自らがスタートアップに携わることは、UCSBに限った話でなく、アメリカでは一般的だ。そもそも工学部の教授の場合、ほぼ100%が企業に勤めた経験をもつ。

 一方、日本の教授は、博士号を取得して、大学で助手からスタートして……と、外で活動をしていないことが多い。

 そのため、講義は教科書中心となる。教科書というのは過去の話をまとめたもので、歴史の講義をしているようなものだ。これでは学生は最先端の知識を学べない。

 この話を日本の大学教授にすると、「その通りです」と納得することが多い(苦笑)。日本の先生方も分かっておられるが、仕組みの問題なので、どうすることもできない。
スタートアップが人を集めるワケ


スタートアップが人を集めるワケ


 アメリカの学生はトップ層でも卒業後、スタートアップに就職したり、スタートアップを起こしたりすることが一般的だ。日本のようにほぼ全員が大企業を目指すなどということはない。
サンフランシスコ市内のカフェに集まるスタートアップの経営者たち。今シリコンバレー界隈では、ハードウェアスタートアップブームが訪れている(写真:小平尚典)
 大企業へ勤めることと、スタートアップへ勤めることは、福利厚生等を含めて条件面で大差ない。ドクターなら1年目で1000万円も珍しくない。加えてストックオプションの魅力がある。

 大企業であれば、ストックオプションの価値はそう変わらないが、スタートアップのストックオプションは、大化けする可能性を秘める。

 こんなことができるのもベンチャーキャピタル(VC)によるスタートアップへの投資が活発だからだ。日本ではVCが少なく、スタートアップを起こした場合、主に銀行から借りることになるが、銀行は担保を求める。事業が失敗すれば、場合によっては親戚まで路頭に迷うことになる。

 これでは新しいことに挑戦しようという若者が増えなくて当然だ。アメリカでは事業が失敗したとしても、基本的にVCが損をするだけだ。起業する側のリスクは日本より低い。

 日本のように「銀行から何とかしてお金を借りてきた」という状況では、お金を使うことが惜しくなって当たり前だ。思い切ったことをできるはずがない。

 私の経営するスタートアップでも、VCが気前よくお金を出してくれている。出張する場合、ビジネスクラスの利用も認められているし、格安ホテルに泊まる必要もない。そういったことを含めてVCはお金を出している。

 初任給が一律同じ、というのもおかしい。アメリカではスキルに応じて一人ひとりの額が異なる。学歴だけで初任給を決めていることは、ロボット扱いをしていることに等しい。こんなことをしているから日本では大学で真面目に学ぶより、遊んでいたほうがトクということになってしまう。

 企業の採用面接でも、真面目に勉強した学生より、「世界一周していました」という学生のほうが評価される傾向にある。これでは、人材の質が上がるわけがない。もっともこれは企業が大学に教育機能を期待していない表れでもある。
人材の流動性低い日本


人材の流動性低い日本


 日本は人材の流動性が低いことも問題だ。アメリカでは色んな人材が集まってスタートアップをつくる。流動性が高いので、欲しい人材が集まりやすく、ありとあらゆる専門家を呼んできて、すぐに何でもできてしまう。

 私のスタートアップでも「我が社へ来ませんか?」と次から次へと電話を掛けているが、それさえやれば、翌日には理想的なチームが出来上がる。大手企業の研究所長がスタートアップの一員になることも珍しくない。日本では考えられない。
(写真:小平尚典)
 一方、日本では1つの企業内で何でもやろうとする。これまで手掛けたことのない分野に進出する場合、企業内にスペシャリストはいない。どう考えても限界がある。

 VCは日ごろ多くの人と会っているため、どこにどのような人材がいるのかよく知っている。そのため、VCに相談すれば、適切な人材を紹介してもらえる。VCはただ投資をしているだけでなく、スタートアップが育つのに重要な役割を果たしている。
米へ留学させるべし


米へ留学させるべし


 日本がイノベーション大国になるためには、様々な仕組みを変えなければならず、大変な労力と時間がかかる。イノベーションを生むようになるための手っ取り早い方法は、若者がどんどんアメリカへ学びに来ることだ。孫正義氏など、日本で成功している経営者の多くは、アメリカで学んでいる。アメリカで学び、日本へ戻って起業すればよい。
カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)キャンパス内(写真:小平尚典)
 日本は発明することと、良い製品をつくることに関しては、世界トップクラスだ。どこの企業も良い製品をつくる。ただし、それを世界のスタンダードにすることは、言葉のハードルがあり苦手だ。

 世界に売ることを考えた場合、若者をどんどんアメリカへ留学させるべきだ。だいたい日本では企業が大学に期待していない(苦笑)。それだったらアメリカへ留学させたほうがよい。

 それと、日本人の真面目さは誇るべきことだ。部品を発注すると、納期をしっかりと守り、完璧なものをつくってくれる。一方、アメリカでは、納期は2倍、3倍かかり、しかも、図面とはまったく違うものをつくってくる、ということが日常茶飯事だ(苦笑)。この真面目さは仕事をするのに普遍的に大切なことだ。

 とにかく日本に必要なのはスタートアップの成功例だ。成功例は後進を育てる。成功例がある程度出たら、変わっていくだろう。

(文:Wedge編集部 伊藤 悟)

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