中村氏が問うた開発者の権利


 ノーベル物理学賞に選ばれた米カリフォルニア大の中村修二教授は企業内研究者の成果は社員、企業のどちらに属するのかという問題をクローズアップしたことでも知られる。中村氏に対する評価の低さから、海外では「スレーブ(奴隷)ナカムラ」とさえいわれたという。現在も日本では職務上の発明は開発者に属するが、中村氏が企業側に対価を求めて提訴したことが特許法改正に向けた議論の原点となった。

 中村氏は平成2年に青色発光ダイオード(LED)の製造装置に関する技術を開発し、日亜化学工業が特許出願。5年に世界初の製品化に成功して日亜も業績を伸ばしたが、中村氏が手にした会社からの報奨金はわずか2万円だった。

 中村氏は退社後の13年に東京地裁に提訴。16年の判決は対価を約604億円と算定し、日亜に請求全額の200億円の支払いを命じた。その後、日亜が控訴し高裁が和解勧告した結果、対価は約6億円に大幅減額され、17年、日亜が遅延損害金を含めて約8億4千万円を支払うことで和解が成立した。

 現行の特許法では特許権は開発した社員のものになるのが原則で、企業側に権利を譲渡した場合に対価を受け取ることができる。だが当時、会社から正当な報酬を得られない開発者も少なくなかった。

 中村氏の裁判をきっかけに開発者が企業を訴えるケースが増加。日立製作所は18年、光ディスクの技術をめぐる訴訟で開発者に1億6千万円を支払ったほか、味の素も人工甘味料をめぐる訴訟の和解で1億5千万円を支払うなど「開発者の権利が見直された」(知財専門家)という。

 政府は昨年6月、知的財産戦略の方向性を示す知的財産政策に関する基本方針を閣議決定し、企業の社員が発明した「職務発明」について特許権の帰属を社員側から企業に移すことを検討する方針を盛り込んだ。

 知財問題に詳しい専門家は「社員は開発が成功しなくても企業から給料を得ている以上、過度な権利主張には違和感があるが、当時は開発者の境遇が悪い中小企業も多く、問題提起にはつながった」と評価する。

 日亜化学は「日本人がノーベル賞を受賞し、受賞理由が中村氏を含む多くの日亜化学社員と企業努力によって実現した青色LEDであることは誇らしい」とコメントした。(板東和正)