安倍宏行(Japan In-depth編集長)

 「ネットメディアは回転ずし」とはうまいことを言ったものだ。たしかに、既存メディア(新聞・テレビ・通信社・雑誌)の記事を転載して広告費で稼ぐのがネットメディアの典型的なビジネスモデル。そのパイオニアが「Yahoo!ニュース」である。月間約150億PVを稼ぐ、化け物ニュース配信サービスだ。その「Yahoo!ニュース」に変化の兆しが見えたのは、2012年9月。「Yahoo!ニュース個人」が始まったのだ。これについては後述する。

 次にネットメディアに大きな動きが出てきたのは2013年ごろ。バイラルメディアなるものが勃興してきた。もともとアメリカで生まれたもので、SNSでの爆発的な拡散を狙うために、読者の興味を引くタイトル、記事、画像、動画などを多用したメディアだ。日本では、一時期30社程サービスを開始した。しかしどれも同じようなものばかり。Buzzる(バズる:話題になる、の意)ことを目的にネット上の面白映像を探してきて掲載するメディアがほとんどであった。しかし、動画の使用許諾を得ているのか怪しいものがあったり、どのメディアも同じ映像を掲載していたりで、すぐ飽きられてしまった。こうした動画系バイラルメディアはほとんど生き残ってない。

 次のネットメディア界の動きとして、2013年にサービスを開始した「ハフィントンポスト日本版」が挙げられる。朝日新聞が出資し、元朝日新聞記者だった高橋浩祐氏が初代編集長(現在はトムソン・ロイター)になった。アメリカで生まれ、世界各国で既にサービスを開始していたこのブログメディアは2015年には日本で月間1億PVを達成している。このころから同じくブログサイトのBLOGOSやアゴラなどが攻勢を強めてくる。筆者が編集長を務める解説メディア「Japan In-depth」も2013年秋に創刊している。
 キュレーションアプリが本格的にサービスを開始したのも2013年。ニュースを独自のアルゴリズムでユーザーの興味の対象に沿って配信するもので、「Antenna」や「Gunosy」、「SmartNews」などがそれにあたる。スマホに特化し、テレビCMを大量に打ってアプリのダウンロードを加速させる手法が当時話題になった。有識者だけでなくユーザーの知見を生かしたコメントを前面に打ち出した経済情報ニュースキュレーションサービス、「NewsPicks」も同じく2013年に生まれている。

 そして前述した日本版バイラルメディアが淘汰された後、2016年1月には満を持してバイラルメディアの元祖、「BuzzFeed」が日本に上陸した。ヤフー株式会社が出資したことでも話題となった。初代編集長は、元朝日新聞デジタル編集部の古田大輔氏。こちらは新聞社から記者を採用したり、調査報道に力を入れようとしていたり、ただ動画を垂れ流していた過去の日本版バイラルメディアとは一線を画す。

 それ以外は、既存メディアのネットメディアとして気を吐く「現代ビジネス」や、産経新聞の「iRONNA」がある。又、「ライブドアニュース」、「LINE NEWS」なども人気だ。特に友人同士の情報のやり取りをメールよりLINEで行う若者は、「LINE NEWS」でニュースを知ることが多い。

 一通り現時点でのネットメディアを網羅したが、ここで「回転ずし」批判に話を戻そう。何故こうした批判が出てくるかというと、多くのネットメディアが既存メディアの記事にただ乗りしている、とみられているからだ。実際は情報提供料を払っているネットメディアもあるので、すべて「ただ乗り」ではないが、一切払っていないメディアもあるのでそうした批判はある程度当たっている。
 
 お金のかかる「オリジナル記事」はほとんど作らないで、他人が作った記事を大量に掲載しPVを稼ぐ手法、つまり廉価な商品を大量に作り客の前にぐるぐる回す商売が「回転ずし」に見えるということらしい。反対に高級な食材を惜しみなく使い、一点ものを客に出すのが既存メディアであり、その商法は銀座の高級すし店「すきやばし次郎」に例えられる。