田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 今年もノーベル賞の季節がやってきた。ノーベル賞は好意的にみれば、人類の英知の進展に対する世界をあげての賞賛と顕彰の機会ともいえるが、別の側面でみれば愛国心的な名誉欲が露わになる場ともいえる。後者からみれば、日本人もしくは日本出身の人たちが受賞することは、同じ日本人として名誉に思う気持ちが、国民の多くから自然に沸くだろう。
4日、ノーベル医学生理学賞に決まり、学生らが祝福する中、記者会見に臨む大隅良典・東京工業大栄誉教授と妻萬里子さん=横浜市の東工大すずかけ台キャンパス
4日、ノーベル医学生理学賞に決まり、学生らが祝福する中、記者会見に臨む大隅良典・東京工業大栄誉教授と妻萬里子さん=横浜市の東工大すずかけ台キャンパス
 今年も日本はノーベル賞の受賞者を輩出した。これ自体はとてもおめでたいことである。ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典東京工業大学栄誉教授は会見で「基礎研究を日本はもっと大切にして、役立つとか役立たないとかで科学研究を断定的に評価すべきではない」という趣旨の発言をしたが、筆者も大いに賛同したい。

 経済学者のポーラ・ステファン教授(アンドリュー・ヤング公共政策大学)の指摘によれば、科学の生産性(進展)を決めるキーは、当たり前のようだが科学者のやる気だ。そしてこのやる気は、従来の知的資産の蓄積や本人の知的好奇心も重要なのだが、やはり金銭的な仕組みが決定的な要因となる(ポーラ・ステファン『科学の経済学』日本評論社)。

 例えば、先に「発明」や「発見」をした科学者への先取権認定の仕組みや、研究のための資金調達方法、研究者の雇用の仕組みはもちろん重要だ。ただ、有能な科学者たちの世代ごとの変化は、その国の研究開発投資に大きく依存している。

 研究開発投資(R&D)のGDPへの比率でみると、有能な科学者たちが世代ごとに生まれるのかどうかがかなりはっきりする、とステファン教授は指摘している。日本は米国と並んでこの「研究開発投資/GDP比率」が最も高いグループに所属する。実際に1980年代後半から21世紀の今日まで世界でトップもしくはそれに準ずる地位を維持してきた。ノーベル賞の受賞者が21世紀になって日本で相次いでいる背景には、この80年代後半からの経済規模に見合った研究開発投資の高水準があることはほぼ間違いない。

 ちなみに最近では、韓国が猛烈に研究開発投資を増加させていて、「研究開発投資/GDP比率」でみると日本から世界一位の座をここ数年奪取している。また博士号取得者数、特許権出願数などで中国、韓国が猛烈にその件数を増やしていることも注目される。後藤康雄氏(経済産業研究所上席研究員)は、特に海外向け特許の出願件数の動向をみて、米国、韓国、中国が順調の増加スピードを上げている中で、トップ水準にあった日本が次第に低迷し始めていることに警鐘を鳴らしている(ステファン前掲書解説)。