田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 経済評論家の上念司氏の新刊『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(講談社+α新書)が話題だ。日本経済の長期停滞を、日本型エリートの構造的欠陥に求めた快著である。

 今日でも「消費増税しないと国の借金を未来の世代に押しつけてしまう!」「日本の借金は1000兆円以上で財政危機!」という話題は、いろいろなところで聞かれる。この話題のルーツを見ていくと、たいがいは財務省の官僚たちの作文や発言にたどり着く。財務官僚が政治家やマスコミなどに「ご説明」や「根回し」で利用している資料や説明文のことである。

 日本の興味深いところだが、自信満々な民間の企業家や「反体制」的な姿勢をとる言論人の多くが、この財務官僚たちの作文や発言をそのままオウム返しに繰り返していることだ。

 特に深刻なのは、大新聞の経済系記者たちである。大新聞の経済系記者たちの大半は、財務省の広報機関としての役割を忠実に果たしている。日本の大新聞だけではない。海外系通信社でも、日本人もしくは日本で長く特派員を務めている人たちの記事には同じ傾向があるので注意が必要だ。

 もちろん財務官僚発のものでも正しければなんの問題もない。だが、上念氏の新著は、財務官僚の経済音痴ぶりや数々の間違いを指摘しており、その批判は痛快である。本書では、大新聞の代表として、特に「日本経済新聞」に焦点をあてている。

 日本経済新聞の「“国の借金”が(2015年)12月末で1044兆円 国民一人当たり832万円」という見出しの記事を見てみよう。上念氏によれば、この種の記事は「一定の間隔を置いて、定期的に掲載されている」といい、「まるで借金が雪ダルマ式に膨らんでいくかのような印象」を読者に与えるという。ちなみにこの種の「国の借金が大変だ!」的な記事は、日本経済新聞だけのお家芸ではない。多くの大新聞やテレビのニュースなどでも垂れ流されている。

 この「国の借金が大変だ!」的な報道は、1)財務省の発表をそのまま記事にしただけ、2)経済や会計の常識を利用すれば、誰でもわかることが無視されている、3)そのため財務省の意図する「財政再建」路線への誘導として利用される結果になる、という特徴を持っている。

 上念氏の記述を借りよう。

「まるで借金が雪ダルマ式に膨らんでいくかのような印象です。しかし、債務の大きさは、あくまで借り手の資産と収入とのバランスで考えなければ意味がありません。具体的にいえば、国の賃貸借対照表を見ないと、それが多いのか少ないのかは判断できない、ということになります。この記事のどこを読んでも、賃貸借対照表の左側にある資産のことは一言も書いてありません」(『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(講談社+α新書)103頁)。

 繰り返し指摘するが、この財務省の報道をそのままニュースにして、なんの分析も加えないのは、日本経済新聞だけのお得意芸ではない。大メディアの多くが好んでこのような報道スタイルをとっている。そのためむしろ財務省のホームページを直接見たほうが情報も正しく豊富だ(おわかりだろうが皮肉である)。