大内裕和(中京大学教授)

 広告大手電通に勤務していた高橋まつりさん(当時24歳)が、2015年12月24日に過労自殺し、今年9月に労災認定されました。東京労働局が10月14日、実態解明のため東京本社を立ち入り調査しました。まずは、亡くなられた高橋さんに心から哀悼の意を表したいと思います。このようなことが二度と起こらないよう、大学で教鞭をとっている研究者として、微力を尽くしたいと考えています。この文章もその一つとなることを願っています。

 電通では1991年にも入社2年目の男性社員が過労自殺し、損害賠償請求で最高裁までもつれ、2012年に「会社は社員の心身の健康に注意義務を負う」と判断されました。過労自殺が繰り返されたということは、それを生み出す会社の体質が変わっていないということを意味します。今回の電通をはじめ、日本では過労死事件は繰り返し起こっています。アメリカやヨーロッパ諸国では、同様の過労死事件は起きていません。なぜ、このような過労死事件が日本社会からなくならないのでしょうか?

 第一に長時間労働の蔓延と労働時間規制の弱さがあります。2016年に出された『過労死等防止対策白書』によれば、日本において、週49時間以上の労働をしている労働者の割合は男女合わせて21.3%です。韓国の32.4%には及びませんが、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど、アメリカやヨーロッパ諸国のどの国よりも高くなっています。

 白書によれば、過労死ラインとされる「月80時間超」の残業をした社員がいる企業が23%もあり、業種によっては4割を超えています。長時間労働が蔓延していることが分かります。どうして長時間労働がなくならないのかというと、労働時間規制が余りにも弱いからです。労働基準法第32条では下記のようになっています。

第32条

1 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。

2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

 1日8時間、週40時間以上労働させてはならないという法律は存在しています。しかし、労働基準法第36条に使用者が労働時間を延長できる規定があります。この条文に基づくいわゆる「36(サブロク)協定」で決めれば、労働時間を延長して残業させてもよいことになっています。しかも、36協定で定められる上限の労働時間について規制がありません。厚労省は協定を結ぶ際に、月45時間、年360時間の限度基準を示していますが、拘束力がありません。さらに特別の事情があればさらに延長できる「特別条項」がありますから、残業時間は事実上、青天井ということになります。