谷本真由美(コンサルタント兼著述家)


 電通の新入社員の方の自殺が労災認定された件が話題になっています。
(写真はイメージです)
(写真はイメージです)
 東大を卒業して電通に入社した高橋まつりさんは、入社後にインターネット広告を担当するデジタル・アカウント部に配属されましたが、月の残業時間が105時間を超え、昨年12月のクリスマスの日に会社の寮から投身自殺してしまいます。

 この件はいろいろ大炎上しているわけですが、ここまで燃え上がってしまうのは、「電通はフリーメイソン」だと思っている 一般民の興味を集めているという以上に、やはり日本では、サビ残、長時間労働に苦しんでいる人が多く、「これって俺だったかも…」と思っている人が多いからでありましょう。

過労自殺 電通に抜き打ち調査(NHK NEWS WEB)

http://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20161014/3505981.html

電通「鬼十則」背景か 東大卒エリート美女、自殺までに綴った苦悶の叫び(Yahoo!ニュース)

http://news.yahoo.co.jp/pickup/6217721

吉田秀雄と「鬼十則」(吉田秀雄記念事業財団)

http://www.yhmf.jp/pdf/activity/adstudies/vol_01_03.pdf

 ところで、こういう事件が表沙汰になりますと、毎回金太郎飴のように出てくるお話が「過労死は日本文化!」「長時間労働は日本の伝統!」というやつです。

 しかし、長時間労働も、サビ残も、滅私奉公も、過労死も日本文化とは関係がなく、伝統でもなんでもありません。

 日本も戦前は、身分の安定したサラリーマンや役人というのは、実は社会の少数派で、エリートでした。こういう人たちは、今に比べたら緩いですが、組織にご奉仕する働き方をしていました。

 しかし、大多数は、不安定な立場で、自分の労働時間やスキルを売って生活していたのです。日雇いの職人のような状態です。

 堺屋太一氏の『日本を創った12人』によれば、大正から昭和にかけての日本では、従業員の首切りが簡単な自由競争の社会で、働く人の転職率は、世界一だといわれていました。

 京都大学の久本憲夫教授の『正社員の意味と起源』(政策・経営研究 2010 vol.2)(http://www.murc.jp/english/think_tank/quarterly_journal/qj1002_02.pdf)によれば、日本で終身雇用前提の正社員が一般化したのは、1960年代以後であり、それまでは、経営首脳陣候補であるごく一部の正社員以外は、中途採用や転職が当たり前でした。

 正社員以外には、ホワイトカラーで事務職であるが経営首脳陣候補ではない準社員、現場で作業にあたる職工と呼ばれるブルーカラーがいました。正社員とは給料、福利厚生、昇給などで大きな差があり、終身雇用でもなかったため、会社への帰属心は薄かったとされています。転職も珍しくありませんでした。

 1960年ごろの大企業では、ごく少数の正社員は定期採用中心でしたが、職工の採用数は正社員の10倍にもなりました。その多くは臨時工であり、今でいう非正規雇用のような雇用体系でした。その多くは、職場の親方により雇われ、採用の多くは縁故(コネ)であり、親方との関係により、解雇されてしまうこともあるという状態でした。

 日本で幹部候補の社員以外も定期採用が実施されるようになり、終身雇用や、職場への高い定着率が一般的になったのは、50年ほど前のことであり、それ以前は、働く人のほとんどは、フリーターのような状態で、転職は当たり前、さらに、職場への帰属心も高くはなかったのが一般的だったのです。