常見陽平(千葉商科大学 国際教養学部専任講師)

 過労死はいつになると、死語になるのだろう。思えば、私が労働問題に興味を持ったのは、10代の頃に見た「過労死」に関するドキュメンタリーだった。「“俺がいないと職場が回らない”とAさんは言っていた。倒れたその日も、会社は普通に動いていた」そんな内容のナレーションを今でも覚えている。人が会社で死ぬという事実に衝撃を受けた。この「過労死」という言葉は1980年代に生まれた言葉だ。それ以前は「突然死」と呼ばれていた。
高橋まつりさんの遺影と母親の幸美さん=10月7日、東京・霞が関
高橋まつりさんの遺影と母親の幸美さん=10月7日、東京・霞が関
 あれから数十年経ったが、「過労死」は死語になっていない。今でも日本人は職場で死んでいる。この10月にはこの「過労死」をめぐって、大きな出来事があった。厚生労働省が『平成28年版過労死等防止対策白書』を公表したこと、そして昨年、大手広告代理店電通で起きた過労自殺の問題である。

 特に後者については、過去にも過労自殺事件が起きていること、新入社員の女性が何度もSNSでパワハラを受けていることや、過重労働で病んでいる状態にあるなどの危険信号を発信していたのにも関わらず悲しい結果になったことなどが問題視されている。

 まずは、今一度、『平成28年版過労死等防止対策白書』を今一度、噛み締めたい。もともと、この白書を発表することは数年前から決まってはいた。ただ改めて、いま、国が大規模な調査を行い、発表する意味を噛み締めたい。概要版だけでもかまわない。これは過労死で亡くなった人、その遺族、職場で過労が原因で体調不良になった者の悲痛な叫びの塊である。我が国の労働社会を理解する上でも、極めて有益である。改めて、働きすぎ社会であることを再確認するとともに、対策を考える機会としたい。

 後者の電通過労死事件に関しては、「電通」「東大卒」「女性」「新人」「母子家庭出身」などのキーワードが注目されたり、先日あったネット広告の不正請求と絡めて叩く意見も散見される。私も同社や、その経営陣、管理職の責任は重いと感じるが、彼女の死を無駄にしないためにも、怒り、憤りをこらえつつ、もちろん下世話な勘ぐりも捨てた、冷静な議論が必要だと考える。

 電通には、労基署の抜き打ちの立入検査も行われたのだが、遺族への償いをするとともに、再発防止に向けての対策が必要だ。社内調査もそうだが、第三者委員会を設置した上で、状況を社外に開示するなどの取り組みを行うべきだ。同社はコミュニケーションのプロであるはずだ。社会がどうすれば納得するのかは理解しているはずである。単なるごまかしではなく、どこまでの対策をすれば十分かをよく考えて欲しい。