鳥越皓之(大手前大学 学長)


 現代人の目からみれば、サザエさんの家族は「フツ―の家族」ではなく、「少し古いタイプの家族」と言えるでしょうか。三世代が同居しているし、サザエさんは働きに出ない専業主婦です。

 古いのは当然です。サザエさんのマンガが最初に発表されてからすでに65年もたっているのです。それでも、なぜ、マンガからテレビのアニメに移行しつつ、そのまま長寿番組であり得ているのでしょうか。

 実は「サザエさん」は65年の間に静かにその内容を変化させています。その変化のもっとも顕著なのはカツオです。彼は当初の単純ないたずらっ子から別の人格へと変貌を遂げているのです。第二次世界大戦後しばらくして経済の高度成長期を迎えた我が国は、その結果、社会の著しい変化に直面します。この段階に至って、作者の長谷川町子はカツオに別の人格を与え、あることを主張しなければならないと実感したのだろうと推察されます。そして、その後のアニメの作者たちもこのカツオの新しい人格を忠実に表現し続けました。

 その新しい人格とは、「平凡教育の申し子」と言えばよいでしょうか。民俗学者の柳田国男は、教育というものを「平凡教育」と「非凡教育」に分類しました。平凡教育とは、村などのコミュニティーで生きていくためにみんなが同じようにマスターしなければならない内容のものです。昔の村で言えば、田畑の耕し方、魚の採り方、神様や目上の人に対する礼儀、異性への対し方、集まりでの雰囲気の作り方など、一言でいえば、「生きるための智恵」とも言えるものです。

 それに対し「非凡教育」とは、他人と異なるように差別化し、競争を是とする考え方です。近代になって発達したこの考え方は、現在の社会では当たり前のように受け入れられています。そしてそれは学校教育に典型的に見られます。「知り合いのA君よりもよい成績をとりなさい」というように差別化していくことが非凡教育です。この非凡教育が教室内にとどまらず社会全体に広がると、人間関係はともすればギクシャクしがちになります。