碓井真史(新潟青陵大学大学院教授)

 「サザエさん」は、理想の家族である。ただし、みんなが「サザエさん」を目指せば良いわけではない。アンケート調査によると、「サザエさん」が理想の家族としたのは24パーセント、理想ではないとする回答が74パーセントだった(wotopi世論調査)。

 ただし、ここで理想的ではないとするのは、家族が多すぎるとか、同居や専業主婦というあり方を問題にしている人が多いようである。「サザエさん」が理想的であるというのは、もっと心の問題だ。「サザエさん」は愛に満ちた家庭なのである。
サザエさん一家の茶の間に自分自身を描き起こしてもらう、世界で1枚のセル画を手に入れられるという、三越伊勢丹が売り出した2015年の福袋(寺河内美奈撮影)
サザエさん一家の茶の間に自分自身を描き起こしてもらう、世界で1枚のセル画を手に入れられるという、三越伊勢丹が売り出した2015年の福袋(寺河内美奈撮影)
 たまにはケンカをすることもあるものの、「サザエさん」の家族には愛があふれている。近代社会における家族は、単に家系の存続、子孫繁栄のためにあるのではなく、愛によって結ばれた人間関係が基本だ。その意味で、「サザエさん」は家族そのものである。

 ただし現代における家族の機能は、以前よりも小さくなりつつある。以前なら家族の役割だったことが、家族外の専門家に任せるようになったからだ。幼い子の昼間の子育ては、保育園。高齢者はデイサービス。食事も外食が増え、コンビニの弁当やおにぎりを食べる機会も増えている。子どもの勉強は、学校と塾だ。

 その点では、「サザエさん」は古風なところが残っている。タラちゃんは保育園に行っていない(お母さんが専業主婦だから行けはしないが)。カツオもわかめも、塾にもお稽古事にも行っていない。カツオが宿題が出来ないとなれば、お父さんの波平が鉢巻をして手伝っている。「サザエさん」のアニメで、コンビニ弁当をみんなで食べるシーンはないだろう。

 「サザエさん」は、古き良き日本の理想の家族と言えるだろう。波平が帰宅すると、妻のフネは、玄関に出迎える。会社に行くときは、身支度の準備も手伝っている。かつての日本では見られた風景だ。