奧薗秀樹(静岡県立大学大学院 国際関係学研究科准教授)

 今回のスキャンダルの一報を聞いて、これはある意味韓国現代史の悲劇であると言えるのではないかと感じました。朴槿恵氏は母・陸英修(ユク・ヨンス)女史と父・朴正煕元大統領を相次いで暗殺で失うという非常に悲惨な経験を経て、心に深い闇を抱えるようになりました。それが今回の事態の一因になっているように思います。バランスを失った朴槿恵氏の心の隙間に崔順実氏の父親、崔太敏(チェ・テミン)氏が巧みに入り込んだのです。ある種の「マインドコントロール」にかかったような状態が現在まで続いているのではないかと思わせるものがあります。そんな人物が国民の直接選挙で大統領になってしまったのです。
取り調べのため、ソウル中央地検に入る崔順実氏=1日(聯合=共同)
取り調べのため、ソウル中央地検に入る崔順実氏=1日(聯合=共同)
 崔太敏氏と朴正煕氏が親密だったこともあり、娘の朴槿恵氏を取り巻く崔順実氏と元夫の鄭允会(チョン・ユンフェ)氏、さらに崔太敏氏をめぐる噂は昔からありました。私が韓国に留学した1980年代後半でも、特に朴槿恵氏と崔太敏氏の根拠なき与太話が酒場で飛び交うほどでした。権勢をほしいままにした朴正煕の娘であり、陸英修氏亡きあとはファーストレディの代役を務めるなど国民的人気もあった朴槿恵氏は、それだけでも特別視される存在だったのです。

 崔順実氏に関しては、元夫である鄭氏が朴氏の元側近であり、2年前にも旅客船セウォル号沈没事故の当日に「朴氏と鄭氏が密会していた」という根拠のない噂が広がり波紋を呼びました。疑惑はなんとか収束して朴氏は困難を乗り切ったかに見えましたが、甘かったようです。「最大のタブー」は他にもあったのです。今回の事態は、大統領府が設立に関与した疑いのある2財団を崔順実氏が私物化したという資金流用疑惑がきっかけでマスコミから追い掛けられるようになり、機密資料が入った崔氏のタブレット端末の存在が発覚しました。

 終わったはずの疑惑がぶり返した背景には、4月の総選挙で与党セヌリ党が惨敗を喫したにもかかわらず、親・朴槿恵体制が続いたことがあると思います。与党からは有力な次期大統領候補があがらず、潘基文国連事務総長に頼るほかないありさまです。朴政権がレームダック化していく中で、隠しきれるはずのスキャンダルが世に出てしまった側面があるように思います。与党が総選挙に勝っていたらこうした事態には至らなかったかも知れません。