2007年、ボナンザは将棋界のトップ棋士である渡辺明竜王に公開の場で挑戦しました。ボナンザの勝つ確率はゼロに近い。事前の予想では、多くの人がそう思っていました。しかしボナンザは、竜王を相手に大善戦。結果は竜王の勝ちでしたが、あわやというところにまで追い詰めたのです。

 それから数年。コンピュータの実力は、棋士も含めてほとんどの人間を追い越してしまった。

 2013年、棋士とコンピュータの公開対局の場である「電王戦」で、ついに現役棋士がコンピュータに敗れました。三浦弘行九段もこのとき人間側の大将として登場し、黒星を喫しています。
電王戦の最終第2局で、PONANZAに敗れた山崎隆之八段(右端)=5月22日、大津市
電王戦の最終第2局で、PONANZAに敗れた山崎隆之八段(右端)=5月22日、大津市
 電王戦では以後もコンピュータが棋士を圧倒しています。

 そして現在。つながった数百台のコンピュータ(クラスタ)でもなく、1台の高性能のパソコンでもなく、ポケットに入るほどの大きさのスマホで動くソフトあっても、すでに驚くほどに強い。そういう段階に至っています。

 コンピュータ将棋が強くなっていった過程を丁寧にたどっていけば、四十数年という歴史はとても長い。そこには開発者たちの悪戦苦闘の跡があります。

 しかし、古くからの将棋愛好者にとっては、まるで夢でも見ているかのように、あっという間にも感じられるのではないでしょうか。想像を上回る現実の変化に、意識が追いついていない人がいたとしても無理はありません。

 話を元に戻しましょう。現在の将棋界の「カンニング疑惑」に端を発する騒動は、事前に防ぐことは可能だったでしょうか。

「コンピュータ将棋はすでに棋士よりもはるかに強い」
「スマホでもたいていのことができてしまう」
「将棋界はこれまで性善説に基づくルールでやってきて、それはよき伝統でもあるのだけれど、残念ながら現在はそうとばかりも言ってられない」

 そうした正しい認識を持った人の意見を尊重し、対局場(主に東京・大阪の将棋会館の一部)に通信機材の持ち込みを厳格に禁止するなど、適切な措置を取っていれば、少なくともスマホをめぐっての無用のトラブルは防ぐことはできたはず。

 後から振り返ってみれば、誰でもそう言えるでしょう。

 現状を正しく分析し、前もって先を見通すのは難しい。しかし、何かしらの選択を迫られ、状況が悪くなった後であれば、何がよくて何がよくなかったのかはだいたいわかる。それはまさに、将棋そのものです。

 将棋界が先を見通すことができず何かしらの対応を誤ったがために、現在ピンチに立たされているのは、どうにも皮肉なことと言わざるをえません。