第1の権力バランスの回復とは、権力関係に不均衡が生じた場合にそれを是正することである。具体的には大統領や国会議員の任期や権限を変更する改正である。代表的な例だけを挙げると、フランスでは大統領と議会との「ねじれ」を回避するために、2000年憲法改正で大統領任期(7年)が議会任期と同じ5年に短縮された。また、イタリアでは現在、強すぎる上院の権限を縮小する憲法改正手続が進行中で、12月に国民投票が行われる。

 第2の現代的な統治技術の導入とは、憲法制定後に確立した新しい制度や技術を憲法に取り込むことである。実は、統治の制度や技術も時代を経る中で新たに考案される。たとえば、「憲法裁判所」は20世紀前半に考案された新しい国家機関であり、それが普及したのは第二次世界大戦後である。また、韓国やベルギーは、戦後の憲法改正によって憲法裁判所を設置している。

 第3の新しい理念や価値観の例としては、環境保護原則が挙げられる。フランスでは環境憲章という独立の法文書が制定され、後に憲法に編入された。また、欧州の基本的原則として死刑の禁止(ドイツ、フランス、イタリアなど)が、あるいは最近では同性婚の禁止(クロアチア)が憲法の原理として書き込まれた例もある。

 さらに、フランスは興味深い憲法改正を試みた。女性の社会進出が進まないフランスでは、1999年憲法改正で男女同数原則(パリテ原則)が憲法に規定された。そしてこれを具体化する法律が選挙での比例代表名簿の順位を男女交互に配置することを義務づけたため、2015年12月の地方議会選挙では、全議員のうち女性議員が47.8%を占めるに至った。このように、欧米の立憲主義諸国は、憲法制定後に生じた新たな問題を憲法自体のアップデートによって対処してきたのだった。

 こうした諸外国の改正動向は、果たして日本とは無関係なのだろうか。2000年代以降の「ねじれ国会」では、「強い参議院」の実態が明らかになった。実際にも、参院選敗北の責任を負って首相が退陣に追い込まれ(1998年橋本内閣、2007年安倍内閣)、来たる参院選に備えて首相が交替するなど(2001年森内閣、2010年菅内閣)、参院選の結果が政局に直結する事態が相次いで生じた。

 しかし、衆議院の信任のみに基づく内閣が参院選を契機として変わることは憲法の予定するところではなく、ここには権力の不均衡が見られる。したがって、その是正のために、憲法改正によって、強い参議院の源泉である衆議院での再可決要件(59条2項)を現行の3分の1以上から2分の1以上に緩和することには十分な理由がある。