篠田博之(月刊「創」編集長)

 10月6日、日本弁護士連合会(日弁連)が人権擁護大会前日のシンポジウム会場で流した瀬戸内寂聴さんのメッセージビデオが思わぬ騒動になった。死刑廃止を訴えるなかで、「殺したがるバカどもと戦ってください」と語ったのが問題になったのだが、ご本人は10月14日付の朝日新聞で真意を説明して謝罪した。この騒動、何が問題だったのか検証しておこう。

 私は日本ペンクラブの言論表現委員会副委員長を務めており、そのペンクラブ主催の瀬戸内さんの講演に関わったこともあるが、その時に感心したのは瀬戸内さんの、まさに「法話」で鍛えられた話術だった。講演もさることながら、その後の会場との質疑応答がなかなかすごい。批判的な質問が出ても、それに絶妙に答えて笑いも取り、会場全体を熱気にまきこんでいくのだ。

 だから、今回の死刑に関するメッセージも、会場で直接話していたら、その場の空気を読み取りながらフォローし、どぎつい表現を笑いで包んで喝采を浴びたかもしれない。ただ、実際には、94歳の高齢ゆえに、事前にビデオ収録を行ってのメッセージとなった。しかも当日、ビデオを前半・後半とふたつに分けて流したというから、全体の真意がうまく伝わらない恐れがあった。
瀬戸内寂聴氏
瀬戸内寂聴氏
 瀬戸内さん自身は事前にどのくらい説明を受けていたかわからないが、実は福井市で開催されたその大会での死刑をめぐる取り組みは、日弁連にとっても歴史的なものだった。大会の場で「死刑廃止宣言」を打ち出す予定にしており、それが事前に報道され話題にもなったために、その方針に反対する弁護士も会場につめかけるなど、緊迫した状況だったのだ。企画した側は、死刑廃止へ向けた瀬戸内さんのスピーチを追い風にしたいと思ったのだろうが、賛成反対双方がピリピリしたムードでいる中で、「殺したがるバカども」発言が飛び出すという、ちょっと危ないシチュエーションになってしまったのだった。

 実行委員会も収録されたビデオを大会前に見て、たぶんちょっと不安は感じたと思う。しかし、瀬戸内さんという大御所の作家の発言を一部カットするなどありえない。だからそのまま流したのだが、案の定、会場から反発が出ることになった。