高橋幸夫(「あすの会」幹事、医師)

 日本弁護士連合会(日弁連)は人権擁護大会で「死刑廃止」を宣言した。その大会で、瀬戸内寂聴さんが作家として、出家者として「殺したがるバカども」とビデオメッセージで発言し、大きな話題となっている。私は、その大会に出席しており一部始終、見聞していた。私は14年前、妻を拉致誘拐され犯人が自殺、妻は行方不明のままとなった夫であり、この事件をきっかけに死刑制度に関心を持つようになった精神科医である。48年間の医療経験を重ね合わせて、日弁連や瀬戸内寂聴さんの件に感想を述べようと思う。

 私の願いはただ一つ、失われた命を取り戻すことは出来ないが、悲惨な事件が繰り返されぬよう、社会ルールを堅持し、社会に安心、安全を取り戻すことである。そのためにも死刑制度は必要と考えている。

 瀬戸内寂聴さんのビデオメッセージに批判の声が多く寄せられ、寂聴さんは、そのメッセージを否定する「バカは私」発言を再びなさった。この一連の流れから察するに、僧侶になろうとも、人の本心は変わらぬことを物語っている。出家し袈裟をかぶり体裁を整え、修行して徳を積み、人様に説教して廻り、傍目には「さすが僧侶」と見えた。しかし、それは表面的なものであり、本心は変わらぬことを自ら、我々に示したのである。
瀬戸内寂聴氏
瀬戸内寂聴氏
 人間は生来持って生まれる生物学的性質と生活環境が、縄のごとくあざなって成長するものである。生活環境とともに、基本の生物学的に規定された性格(DNAレベル)要因が大きく左右し、人格形成がなされてくるのである。いくら良い環境で育とうとも、生物的に規定された性質によっては「反社会性人格障害者」が生まれてくることがある。生まれながらに犯罪(反社会的行為)傾向の強い人と言ってもよい。

 これら一部の人たちは、適切な働きかけをしても、本人は反社会的行為だと気づかず、罪を悔いることもなく、残虐な犯罪を繰り返す人たちであり、更生や矯正治療によっても変わり得ないのである。すなわち治療反応性の極めて乏しい人たちである。この事実は、われわれ精神科医が日々痛感するところである。

 統計数字から見ても、一般的な再犯率は40%~60%とも言われている。すなわち約半数の者は更生しないし矯正出来てないとも言える。殺人事犯では100人中1~2人は、再び殺人を犯すと言われている。再犯者には、暴力団関係者が目立ち、劣悪な生育環境下にいた者は少なく、相手を殺害するほどの事情がないにもかかわらず、その場の激情や興奮に単純に支配され凶行に及んでいるとの報告がある。

 これは、感情が激越的に爆発しやすい性格であり、衝動的に反社会的行為を起こしやすいからである。このような人格障害者の矯正や更生は、とうてい望み難い。死刑廃止論者は、犯罪は社会環境のせいだとするが、社会環境が悪いだけではない。自己責任部分も多いにある。医学的観察や統計数字からみて、全ての人間が人の心の痛みを知り、更生できるとの考え方は、勉強不足というものである。虎も猫も子供のころはみな、かわいい。