猪野亨(弁護士)

朝日新聞朝刊の10月9日付社説
 日弁連が先の人権擁護大会でようやく死刑廃止に向けた宣言を採択しました。被害者遺族の代理人を自負する弁護士たちからは種々の批判がありましたが、どれも感情にまかせただけの到底、法曹としての主張としては聞くに堪えないものばかりでした。この宣言に対し、各種マスコミでも社説を掲載していますが、死刑制度の議論に一石を投じたという趣旨のものがよく目に付きました。

 ところで、朝日新聞の社説に対し、犯罪被害者遺族への配慮が足りないと批判している弁護士たちがいます。朝日新聞の社説はこちらです。
(社説)死刑廃止宣言 日弁連が投じた一石」(朝日新聞2016年10月9日)

 私は、朝日新聞の社説を読んだとき、非常に真っ当な主張だと思いました。これこそ死刑廃止に向けたごく当たり前のものだからです。

 しかし、上記「弁護士団体」は違ったようで、弁護士ドットコム記事によると次のように主張しています。

 同フォーラム事務局長の高橋正人弁護士は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し「朝日新聞は死刑廃止を当然の前提としているように見えます。あれを読んだ被害者や遺族がどんな気持ちになるかなんて、考えていないのではないでしょうか。被害者側としては、『何で私たちが死刑を望むようになってしまったのか』という心情を理解して欲しいのに、デリカシーがなさすぎます」と、批判した。(中略)

「私たちは支援のあり方を散々提言して、被害者参加や損害賠償命令制度などを実現させてきました。朝日新聞はちゃんと取材したのでしょうか。『ただ批判するだけ』なのは、朝日新聞の方ではないでしょうか」(高橋弁護士)

 被害者遺族の気持ちだ、というキーワードを用いているのは言論封じがしたいからなのでしょうか。被害者参加制度を実現させたと言いますが、同制度の導入こそが刑事裁判の在り方を根本的に変えてしまった問題のある制度です。

 それはともかくとしても、朝日新聞に対する次の質問には違和感しかありません(前掲弁護士ドットコムより)。

・「ただ批判する」とは、犯罪被害者の支援に取り組む弁護士らが何ら根拠なく、感情的に反対しているとの趣旨か
・犯罪被害者の支援に取り組む弁護士らが、既に、被害者支援のため、現状や施策につき具体的提案をし続けていることを知っているのか
・(社説中の)「死刑廃止を目指すのであれば」とは、凶悪犯罪で家族を殺された被害者遺族や、それを支援する弁護士も、死刑廃止をめざすのが当然という趣旨か。そのような趣旨だとして、なぜ、被害者遺族や支援する弁護士も、死刑廃止を目指さなければならないのか。その理由は何か。
・被害者遺族も死刑廃止を目指すべきだと言われて、被害者遺族がどのような気持ちになるか、考えなかったのか

 この質問の趣旨には当然に犯罪被害者の遺族は死刑を求めているということを前提にしており、死刑の廃止の主張など被害者感情を逆なでするからけしからんと言わんばかりものです。