西村眞悟(前衆院議員)

 フィリピンの大統領ロドリゴ・ドゥテルテについて書いた以上、アメリカの大統領候補ドナルド・トランプについても書いておきたい。
 
 二人とも、土着の顔をして、年齢は七十一歳と七十歳と既に成熟しているのに、不良少年の様な、予想のつかないことを言うが、後で考えると国民の支持が集まるのももっともだと思わせる点で、一貫している。

支持者を前に演説するロドリゴ・ドゥテルテ氏=5月7日、マニラ(共同)
支持者を前に演説するロドリゴ・ドゥテルテ氏
=5月7日、マニラ(共同)
 土着の顔とは、フィリピンのドゥテルテは、上流階級のスペイン系やシナ系ではなくミンダナオ、スペインと三百年間の「モロ戦争」をして次ぎに一九一五年までアメリカに抗戦していたミンダナオの顔だ。

 アメリカのトランプは、映画のバックトゥーザフューチャーに出てくる成金になった乱暴者の顔だ。フィリピンのドゥテルテ氏は、既に大統領に就任していて、法治を無視した麻薬犯罪者の現場での射殺を公言し実行しているのに、八十パーセントという国民の支持を得ている。
 
 それは、大多数のフィリピン民衆が、放任され多発する犯罪被害に苦しみ、上流階級が麻薬密売による巨額の資金の恩恵を受けていることを知っているからだ。

 他方、トランプ氏は、白人ブルーカラーの支持を受けて予備選挙を勝ち抜いてきたが、 白人ブルーカラーの支持層が、そのまま大統領選挙において大金持ちの不動産成金の彼を支持し続けるかどうかは分からない。
 
 とは言え、競争相手のヒラリー・クリントン氏にこれから支持を伸ばす要因があるのかと言えば、ナイ、としか言えない。従って、ドナルド・トランプ大統領誕生の公算大である。

 そこで、その彼ら二人が、それぞれ、国内で何をしようが内政のことなので構わないが、国際状況に関して何を言っているのかについて記しておきたい。

 二人に共通しているのは、ええ歳をしているのに、国際情勢に関する理解が欠如しているということだ。

 まず、南シナ海に関して、アメリカ軍がベトナムから撤退した一九七二年に中共軍がすかさず、ベトナム東方沖の西沙諸島に軍事侵攻して実効支配を確保したこと、また、アメリカ軍がアジア最大の海軍基地であるフィリピンのスービック基地から撤退した一九九一年十一月直後に、 中共軍がフィリピン南西沖の南沙諸島に軍隊を侵入させ、以後、今日の海を埋め立てて軍事基地を構築する現在まで領有を続けていること、つまり、ベトナムやフィリピンが現に中共の侵略を受けていることを、知らないかのようなドゥテルテ大統領の反米と対になった対中接近の言動は、自国を裏切ると共に、我が国に対する脅威を呼び込むものと言わざるを得ない。

 次ぎに、トランプ大統領候補は、アメリカの防衛ラインを一体何処かと思っているのか。防衛ラインの意識すらないのか。アメリカの防衛ライン、それは、オホーツク海と西太平洋ではないか。共に、我が国の北と東に沿った海である。
 
 この二つの海域に、ロシアと中共が自由に原子力潜水艦を潜航させれば、アメリカ本土の如何なる大都市も、ロシアや中共の核弾頭ミサイル(SLBM)の射程に入る。
 
 従って、アメリカの太平洋を守る第7艦隊はもちろん我が国も、我が国自身を守ると同時にアメリカをも守っているのである。
 
 それにもかかわらず、アメリカのアジアに展開する軍事力は、アメリカ本土防衛とは無縁の無駄な軍事力であり、日本はただ乗りしている、かの如き発言をするトランプ候補は、国際情勢と国防に関して無知である。

 この発想のままで大統領になれば、国の安全を無視して、金銭取引だけに関心を示して強盗(中共)とも取引をする成金ビジネスマンが大統領の地位をハイジャックしたようなことになり、アメリカの国益崩壊をもたらすのみならず我が国を含む東アジアを中共の覇権下に売り飛ばしかねない。

 以上の通り、ドゥテルテ大統領もトランプ大統領候補も、我が国にとって、最悪の国際情勢を呼び込む可能性が大いにある予測しがたい人物である。
 
 しかし、彼らの出現が、我が国に関してプラスに作用する点も指摘しなければならない。 
 
 それは、彼らが、我が国の自立、則ち、戦後体制からの脱却を促していることだ。我が国と国民は、独立自尊の体制、つまり、我が国は、他国の大統領が何者であっても、自力で国家の存立を確保する体制を確立しなければならない。このことを、ドゥテルテ及びトランプ、特に、トランプが、我が国に思い知らせてくれている。

 例えば、歴代アメリカ大統領は、我が国やNATOに「核の傘」をかけて核攻撃から守っていると言っていた。ところが、トランプは、アメリカの都市に対する核攻撃の危険を冒してまでも他の国を守ることはできないと言っている。

 つまり、アメリカの「核の傘」はないと言っているのだ。「アメリカの核の傘はない」、これは、かつて、フランスの核保有への動きを阻止しようとするアメリカのケネディー大統領にドゴールが言った言葉である。
 ドゴールは、ケネディーに言った、 「ニューヨークやワシントンに、核爆弾が落ちる危険を冒してアメリカはフランスを守れるのか」と。その時、ケネディーの顔は蒼白になったと伝えられている。ドゴールの言ったことが図星だったからである。

 今、フランス人ではなく、アメリカに、「アメリカの核の傘はない」と言う大統領が出現しようとしている。従って、我々は、ドゴールのように! 自らの力で、如何にして核の攻撃を抑止するか、
 この死活的な国家的課題に目覚める時が来た。私は、この時を告げてくれた土着の顔をした正直者のトランプを、高く評価する。