加谷珪一(経済評論家)

 投票日を迎えた米大統領選挙は、土壇場でトランプ氏が逆転勝利するという予想外の結果となった。市場はクリントン候補の当選を織り込んでいたので、ちょっとした混乱状態に陥っている。トランプ大統領誕生ということになると、何が飛び出してくるか分からず、しばらくは不安心理が台頭することになるだろう。だが、ここは事態を冷静に受け止める必要がある。
大統領選に勝利したドナルド・トランプ氏
大統領選に勝利したドナルド・トランプ氏
 トランプ氏には暴言が多く、こうした部分にばかり世間の注目が集まってしまう。しかし過激発言を除外すると、トランプ氏の主張は、実はオバマ大統領との共通点も少なくなかった。背景にあるのは、米国がかつては国是としていた孤立主義であり、石油の生産拡大と人口増加がそれを可能にしている。

 米国経済はトランプ氏の大統領就任によって意外と好調に推移する可能性がある。一方、日本など世界各国にとっては大きな試練となるだろう。

 トランプ氏の大統領就任で最初に懸念されるのは米国の自由貿易体制である。トランプ氏は当初、メキシコとの国境に壁を作ると宣言、NAFTA(北米自由貿易協定)やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)について否定的な見解を示していた。これらの公約を本当に実現するということになると、米国を中心とした自由貿易体制は一気に崩れてしまうことになる。

 もっとも、トランプ氏が指名を受諾した共和党大会では、「国益に反する貿易協定には反対する」という曖昧な言い回しに修正された党綱領が発表されており、トランプ氏も最終的には何らかの妥協を迫られる可能性が高い。米国経済とメキシコ経済がすでに一体化した状態にあることを考えるとNAFTAからの完全撤退は難しいだろう。

 ただ、我々が理解しておく必要があるのは、トランプ氏が掲げる米国中心主義というのは、思いつきで発言したようなレベルの話ではないという点だ。この考え方は、目立たない形でオバマ政権の時から始まっているものであり、すでに米国社会の大きな潮流となっている。背景にあるのは石油生産の拡大と人口の増加である。