この点で考えると、TPPとNAFTAを比べた場合、トランプ氏が妥協する可能性が高いのは米国市場との関連性が高いNAFTAであってTPPではない。トランプ氏が自らの公約実現をアピールする材料として、TPP撤退を打ち出してくる可能性は否定できないだろう。ある程度の妥協が図られるにしても、関税撤廃スケジュールの変更や米国企業の日本進出条件などにおいて、日本側が不利になる要求が出てくる可能性は十分にある。

 トランプ氏の大統領就任は日本を含め各国経済に大きな影響を与えることになるが、米国自身の経済は意外と堅調かもしれない。先ほど説明したように、米国は現在、非常に恵まれた環境にあり、長期的な成長余力が高い。しかもトランプ氏は、クリントン氏を上回る巨額のインフラ投資を公約として掲げている。これが実現した場合、米国経済は順調に推移する可能性が高い。

 トランプ氏は、自著で1兆ドル(約102兆円)という巨額のインフラ投資を主張しており、8月にはクリント氏が主張する金額の少なくとも2倍の金額を投じるとも発言している。クリントン氏は総額で2750億ドルの投資を公約に掲げているので、この2倍以上ということになれば約6000億ドルである。5年で均等に支出した場合、各年度における直接的な経済効果は1200億ドルと計算される。

 米国のGDPはすでに18兆ドルと日本の4倍近くもあり、インフラ投資が直接的にもたらす効果はGDPの0.7%程度しかない。だが、インフラ整備は今後の成長の原動力となるものであり、労働者の雇用が増えるなど消費にも好影響を与える。現状の米国経済において投資を拡大するメリットは大きいだろう。

 もしこの規模の財政出動となれば国債の追加発行は避けらないので、金利は上昇する可能性が高く、この部分だけを取り上げればドル高要因となる。一方、トランプ氏は為替水準についてたびたび言及しており、ドル高が米国の労働者を苦しめていると主張している。この点ではトランプ氏の大統領就任はドル安要因といってよいだろう。当初は市場のショックなどもありドル安が続くことになるが、財政出動の規模が見えてくる段階で、為替の水準も落ち着き所を探る可能性が高い。
一時1ドル=101円台をつけた為替相場=11月9日、東京都内
一時1ドル=101円台をつけた為替相場=11月9日、東京都内
 穏やかなドル安が定着すれば、米国経済にとってはプラスである。少なくとも経済的に見た場合、トランプ氏の大統領就任は、日本など世界各国にとっては険しい道となるが、米国にとって悪い話ではない。トランプ氏の主張する米国第一主義はまず経済面において実現するのかもしれない。