神田敏晶(ITジャーナリスト)

 2017年1月20日 大統領就任演説の場に立ったのは、共和党のドナルド・トランプ大統領だった。世界は、まさかこの日が来るとは夢にも思わなかった…。

 スーパー・チューズデーを制したドナルド・トランプ候補は、数々の共和党の反対派をもろともしなかった。ネオコン、ウォールストリート、マスコミの反発をもろともせず、すべて毒舌で彼らの神経を逆撫でれば逆撫でるほど、異常なほどの耳目を集めた。結果として、トランプの毒舌に米国民の下衆な本音の代弁者として祭りたてれられた。

 民主党のヒラリー・クリントン候補も僅差でバーニー・サンダースに勝利したものの、バーニー・サンダースを支援していた社会・民主主義者たちは、共和党のドナルド・トランプ支援へと転じていったのだ。そう、共和党の代表となったドナルド・トランプ候補は、共和党でありながらも共和党らしくない候補という、稀有な存在でもあった。だから、ヒラリーを嫌うサンダース票がトランプへ向かった。

 誰もが、米国の大統領にふさわしいとは思わなかったが、「CHANGE」の旗印のもと、何も「CHANGE」がなかったオバマ政権8年間の揺り戻しは、ドナルド・トランプの「Disrupt(混乱)」な変化を求めたのだった。大本命であったヒラリー・クリントンの大統領像は、想定の範囲内であり、米国民はすでに危険とは知りながらも、ドナルド・トランプの破壊的なまでのファシズム精神に陶酔しはじめていた。

共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏(左)との最初の討論会に出席し、トランプ氏と握手する民主党大統領候補のヒラリー・クリントン前国務長官=9月26日、ニューヨーク
共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏(左)との最初の討論会に出席し、トランプ氏と握手する民主党大統領候補のヒラリー・クリントン前国務長官=9月26日、ニューヨーク
 特に米国の底辺パワーを支える米国8,000万人ミレニアル世代の支持が動いた。学費ローンで苦しめられた若者層、移民に仕事を奪われ続けた若者層、格差の底辺であえぐ若者層が、トランプの「Disrupt」を熱狂的に支持したのだ。

 マスメディアがその熱狂に油を注いでいることに気づくのが遅かった…。ネガティブキャンペーンをやればやるほど、ドナルド・トランプの支持はSNSを通じて、マスメディアの利権を暴き、誰もがマスメディアのネガキャンに動じなかったのだ。

 かつて、黒人排除や「今ここで人種隔離を!明日も人種隔離を!永遠に人種隔離を!」のスローガンにしたジョージ・ウォレス、アラバマ州知事同様に、トランプは米国WASPにとっての仮想の敵のメタファーを、メキシコや日本やイスラム教というアメリカ以外の人種や宗教で囲った。かつては、このような差別は致命的なNGとされていたが、トランプの教養やマナーよりも、再優先すべきは「強いアメリカよ再び!」だったのだ。そのためにはアメリカ人の結束が必要であり、本音で語れる、エリートではない市井の層の声だった。

 そして、トランプ大統領が生まれた…。

 トランプは最初に、TPPを反故にし、各国の輸入に関して関税を再開する案を打ちたてた。石油に関する権利関係においての中東関係への戦争も、イスラエル支援も一気に削減。シェールガスと太陽光へと舵取りをおこなった。

 何よりも大きいのが、軍事費の大削減。それらを教育と医療にまわした。もちろん、日本への駐留基地も全撤退を表明し、日米安保条約を至急再検討課題とした。

 石油価格は、米国が中東から手をひき、シェールとロシアの油源と手を組むこととなった。世界にトランプタワーのビジネスモデルを展開する。日本からは米軍基地がなくなり、領空の回避地域がなくなり、空の完全自由化によって、空の便が最大効率化が図れるようになった。トランプが米国を超内向きにし、海外に関して手をださなくなったことにより、内需が高まり、戦争に頼ることなく経済が回り始めた。

 北朝鮮も米国にアピールする必要がなくなり、いつでも日本に侵略できる機会を得るようになった。日本も独自の武装を余儀なくされた。

 世界は、まさかアメリカが自国に引きこもることによって、このトランプ政権の4年の間に一斉に自助努力をしはじめたのだった。アメリカは、世界の警察を辞任し、自国だけの警備となった。

 ドルは、一時期かなり売られて安値となったが、アメリカ経済の内需の安定により通貨としての価値を取り戻しつつある。

 アメリカの大統領を、バカに任せれば、世界は一瞬の平和を勝ち取ることができたのだ。しかし、その後のアメリカを誰も予測はできなくなってしまった。
(「KandaNewsNetwork」より2016年3月15日分を転載)