オバマ大統領を現職として初めて被爆地広島に赴かせたのも、こうしたトランプ発言が背景にあったと言っていい。しかも、アメリカ国内に戦前の「アメリカ・ファースト」主義を蘇らせ、日本やドイツ、さらにはサウジアラビアの核武装を公然と容認して、これらの国々に燻っていた核保有の議論を勢いづかせてしまった。

 「日本はアメリカが攻撃されても何もしない。そうならば日米安保条約を再交渉すべきだ」

 トランプ候補はこう述べて、日米安保条約を俎上に挙げて、廃棄に含みを持たせる発言もしている。
南シナ海のパラセル諸島付近の海域で実弾演習する中国海軍=7月8日(新華社=共同)
南シナ海のパラセル諸島付近の海域で実弾演習する中国海軍=7月8日(新華社=共同)
 これらのトランプ発言の本質は、アメリカが西側同盟の盟主であることをやめ、超大国たることをやめてしまうと宣言している点にある。新興の軍事大国中国は海洋大国の旗を掲げて、南シナ海に、東シナ海に進出を試みている。クリミア半島の併合を機に米ロが厳しく対立するなか、その間隙を縫って中国は、南シナ海に7つの人工島を建設し、九段線の内側をわが領域と主張している。そして七つの人工島を造成し、3千メートル級の滑走路を造って軍事基地化を進めている。こうしたなかで、日米同盟の弱体化させてしまえば、21世紀という時代にとめどない混乱をもたらしてしまうだろう。

 トランプ次期大統領は「アメリカを再び偉大にする」をキャッチフレーズに掲げ、選挙戦を戦った。だがアメリカがなお偉大であるためには、世界で尊敬されるリーダーでなければならない。戦後のアメリカは、一時の自国の利益よりも国際社会のために行動してきた。それゆえ、アメリカを再び偉大にしたいと考えるなら、国際社会、とりわけ自由の価値観を分かち合う国々との連携が何より大切だろう。日米同盟こそ新政権が確かな船出をするための試金石となるだろう。

 日米同盟は軍事的な結びつきだけではなく、理念の同盟である。トランプ次期大統領は東アジアの要石、ニッポンと絆を強め、日本もまたトランプ次期政権に同盟のあるべき姿を率先して示す時である。日本は大胆に行動を起こす時だろう。

 新しいアメリカの政権は、親日か、反日か。そんな心配をする受け身の姿勢こそが、日米関係を損なう元凶だといっていい。中国が海洋進出を図る東アジアの海を波静かなものにするため、日本はいまこそ主導的な立場をとるべきである。トランプ次期政権の出現を自由という至高の価値を日米で分かち合う太平洋同盟をさらに揺るぎないものにする好機としてほしい。