櫻井よしこ(ジャーナリスト)

国際法を巡る闘い


中国、完全敗北(7月13日付産経新聞1面)
 国際法を守る陣営と国際法を破る陣営との闘いが始まった。オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の判決が斬り出して見せた現実である。同裁判所は七月十二日、南シナ海での中国の無法な主張や行動について、中国の主張をほぼ全面的に退ける裁定を下した。

 当初から中国にとって不利な判決になろうことはある程度、予測されていたが、仲裁裁判所は現在できうる限り最大限に踏み込んだ判決を示し、中国が独自に設定し、領有を主張してきた「九段線」について、「法的根拠なし」と断じたのである。

 これにより、中国が南シナ海の全域にわたってその領有を主張する根拠はすべて崩れ去った。中国の完全なる敗北である。

 フィリピンが仲裁裁判所に仲裁申し立てを行ったのは、二〇一三年一月だった。国際海洋法裁判所や国際司法裁判所と異なり、仲裁裁判所は相手方の当事国が提訴に応じなくとも手続きを進めることができる。中国は、これに反発した。 「当事国同士の協議で解決すべき」「仲裁裁判所にこの問題を扱う権利はない」と主張して、彼らは昨年十一月の口頭弁論にも参加しなかった。一方、フィリピン側は中国の活動に関して十五の申し立てを行い、一万ページにもわたる資料を提出して裁定に臨んだ。

 裁定は、前述のように中国側の言い分をすべて退けるものだった。内容を要約すると、以下のとおりだ。

 ①中国の主張する「九段線」に国際法上の根拠なし
 ②中国が埋め立てた人工島は「島」ではなく「岩」であり、排他的経済水域や大陸棚の権利は主張できない
 ③スプラトリー諸島には国際法上の「島」は存在せず、岩にどのような構築物を建設しても領海や領空は生じない
 ④中国の埋め立てや中国船による漁業が、周辺海域の生態系を破壊している
 ⑤中国船がフィリピンの石油探索や漁業を不法に妨害している
 ⑥仲裁手続きが始まっているのに、なおも大規模な埋め立てや造成を行ったことを非難する

 内容を見る限り、裁定はハーグ仲裁裁判所の固い決意を示している。それは国際社会は徹頭徹尾、互いに法に従い、法に基づく秩序によって治められるべきとする考えだ。中国のような“大国”が、国際法遵守という二十一世紀の人類のあるべき原理原則を破壊しようとしていることに対する警戒心、さらに憤りさえも垣間見せるものだ。