渡邉哲也(経済評論家)

 韓国経済が苦境に立たされている。韓国のGDPの20%を1社で稼ぎ出す最大財閥、サムスン。そのサムスンにも、今年8月に発売されたばかりのスマートフォン「ギャラクシーノート7」の爆発問題で暗雲が立ち込めている。リコール品がさらにリコールされたことで、その費用がかさむとともに、ギャラクシーブランドのイメージ悪化の影響が長期に及ぶ可能性が高い。しかも短期的な損失だけではなく、それ以上に中長期的影響が懸念されているのである。今回のリコールに関して、まだ原因が突き止められていないことも、サムスンの品質管理に大きな疑念を抱かせる結果になっているわけだ。

 これまでサムスンは、迅速かつ大胆な「選択と集中」による業態変更と事業集約で業績を上げてきた。単なる家電メーカーに過ぎなかったサムスンだが、会長である李健熙(イ・ゴンヒ)氏の指揮の下、半導体や液晶、PC、携帯電話など時代のニーズに合わせた大規模な業態変更と設備投資を行い、規模のメリットを活かして好業績を上げ続けた。

サムスン・グループ元会長(手前)の李健熙氏と洪羅喜夫人
サムスン・グループの李健熙氏と洪羅喜夫人
 しかし、この事業モデルにも暗雲が立ち込めている。2014年5月にカリスマ経営者だった李会長が心筋梗塞で倒れたことがつまづきの始まりだった。現在も意識のない状態が続いており、まさに「司令塔」がいない状態に陥っているのだ。サムスンにとって最大の稼ぎ頭は、利益の7割近くを稼ぎ出す携帯電話事業だったわけだが、オーナー不在の状態ではその次の方向性さえ見えない危機的状況にある。

 今回のリコールがなかったとしても、市場ではサムスンの携帯電話事業は、ピークアウトしているという見方が強かった。なぜなら、高付加価値の高級機はアップルが抑えており、中低価格帯は同じアンドロイド陣営の中国の新興メーカーが大きく躍進しているからである。そのため、サムスンが現在の地位を確保するためにはアンドロイド最高級機を出し続ける必要があり、その焦りもあってか、iPhone7の発売を過剰に意識して開発を急ぎすぎたこともリコールの原因の一端になったと言われている。

 現在、携帯電話各社は、顧客の抱え込みとつなぎとめに必死になっており、自社の新型機への買い替えに割引や特典をつけ販売している。サムスンも例外ではなく、いったん他社に流れたユーザーを自社に引き戻すのは容易ではない。中国メーカーのダンピングもあり、イメージが悪化したサムスンにとっては非常に厳しいものになるという見方が強い。ちなみに7-9月期のサムスンの推計シェアであるが、23.3%から20%にまで低下した。(IDC調べ)

 10月27日に発表された2016年7~9月期のサムスンの決算では、携帯電話事業を抱えるITモバイル部門の営業利益はかろうじて黒字を維持したものの、前年同期比で96%減の約1000億ウォン(約92億円)にまで落ちこんだ。それでも全体の営業利益は約5兆2000億ウォンの黒字を維持しており、即座に経営不安が出る状況にはない。ただし、今回のイメージ悪化の影響が中長期的にサムスンを蝕むことになるのは間違いないだろう。また、今回のスマホ爆発事故に連動する形で、過去の洗濯機の爆発事故もクローズアップされており、影響は他分野に及ぶ可能性が高い。