櫻田淳(東洋学園大学教授)

 ドナルド・トランプの登場は、「衝撃」の一語を以て語られる。その「過激」や「奇矯」を印象付ける言動の故に選挙戦当初は泡沫候補としか目されていなかったトランプが、共和党候補指名を勝ち取り、遂には本命と目された民主党候補としてのヒラリー・クリントンを下した風景は、2016年米国大統領選挙における「奇観」であろう。
韓国・ソウルの米国大使館が主催する大統領選の開票状況を見守るイベントのポスター=11月9日(AP)
韓国・ソウルの米国大使館が主催する大統領選の開票状況を見守るイベントのポスター=11月9日(AP)
 しかしながら、既に指摘され始めている事実であるけれども、CNNが11月16日で伝えた選挙結果(ミシガン州を除く)に拠れば、此度の選挙に際してドナルド・トランプが獲得した6100万票弱という一般投票数の値は、前回の2012年選挙でミット・ロムニーが獲得した6100万票弱という値とは然程、変化がない。片や、強調されるべきは、ヒラリー・クリントンが獲得した6200万票弱という値は、前回選挙でバラク・H・オバマが獲得した6600万票弱という値に比べても、約400万票も下回っているという事実である。此度の選挙の実相を表現する言葉として相応しいのは、実は「トランプの勝利」はなく「ヒラリーの自滅」なのであろう。

 此度の選挙に際して、筆者を含めて多くの米国政治ウォッチャーがドナルド・トランプの当選を予測しなかったことを揶揄する向きがある。ただし、特に筆者が読み違えたのは、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、オハイオといった諸州での動向の評価である。要するに、トランプ当選を予測できなかったのは、「その辺りの州で、ヒラリーが想定されていた以上に弱かった」ことを読み切れなかった故に過ぎない。

 加えて、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアの諸州での結果は、得票率にして1パーセント前後の僅差に終っていた。さらにいえば、前に触れたように、ヒラリー・クリントンが総得票数ではトランプを100万票程も上回っていた事実は、どのように評価されるべきか。トランプは、「旋風」という言葉の印象の割には米国社会の圧倒的な支持を集めたわけではなく、ただ単に選挙制度に助けられて当選したともいえる。故に、トランプの当選の「衝撃」を過大に見積もるならば、此度の選挙の評価は無論、今後の展望を誤ることになるであろう。